第一話〜光の四神〜

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第一話〜光の四神〜

蜜虫(みつむし)と名乗った少女の案内で五人はとある屋敷へ訪れていた。西京市の外れに位置するそこは何処か外界とは違った空気を醸し出している。 「お連れしました」 「ご苦労」 案内された先にいたのは男とも女とも見える一人の人物。狩衣に烏帽子という姿は少々時代錯誤であるが、部屋の雰囲気とはよく似合っている。その人物は静かな瞳で舞達を見る。 「お前達が現代の神獣の(あるじ)か」 「あの、何の事……ですか?」 その声音はやはり性別を感じさせず。 値踏みするようなその視線に不快感を感じながら舞は口を開いた。いきなり呼び出しておいて説明も無しとはどういう事だ。 「…その様子では話を聞いてはいないらしい」 「話って何よ?呼び出しておいて随分上から言うじゃない」 「だよなぁ、この俺が呼び出しに応えてやったってのに礼も無しかよ?」 「…あんたのそのふざけた発言はともかく、」 「ふざけたとは失礼な。まぁ、この俺の輝きの前では仕方が無いか」 「輝いてんのはあんたの脳内のお花畑だけで十分よ」 「ふっ……そう照れるな」 「何をどうすればそんな解釈になんのよ!」 「お前等、人前で喧嘩をするな」 「…すみません、賑やかで」 「…いや」 舞が謝れば目の前の人物は微かに笑みを浮かべた。そして、懐かしそうな色を見せる。 「(みな)、心根は変わらないようで安心した」 「え?」 「話を進めるとしよう。蜜虫、客人に茶を」 「はい」 少女が一礼して立ち去るのを見送って改めてこちらを見る。真っ直ぐに見つめられると何故か背筋が伸びた。 「私の名は安倍成明(あべのせいめい)、この地で代々陰陽師を務める者だ」 「陰陽師……」 「安倍って……ずっと昔に活躍した?」 「そう、我が家は代々[せいめい]の名を受け継いでいるのだ」 「そんな凄い家の当主がどうして俺達を呼ぶ?」 雄樹の問いはもっともである。今まで陰陽師に縁があるだなんて聞いた事は無い。神獣の主とも言われたが心当たりは全く無かった。 「かつてそなた等の先祖に力を借りた事がある。五百年前にな」 「それってもしかしなくても戦争の話?」 「おいおい……アレってただの御伽話じゃないのか?」 雅と大輔が言い伝えられているそれを口にする。戦争で多くの書物が焼失している為、口伝でしか伝わっていないそれ。それを伝えてきた親達でさえもそれを真実とは捉えていない。 「真実だ。まぁ、伝わっているものはあくまで一部でしかないだろうが」 「一部……ですか?」 「そなたは……麒麟の娘だな、そなたには何処まで視えている?」 「え……?」 当たり前に問い掛けるそれに柚子が瞬く。確信を持ったそれは間違い無く先見の力の事だった。 「柚子の力を知っているんですか?」 「うむ、その力の使い方を教えたのは我が家だからな」 「わ、私は使いこなせている訳じゃなくて……たまに視える位でそんな……」 「そうか、ならば話すとしよう。かつて日本と呼ばれていたこの国で何があったのかを」 そう言って成明は話を始めた。 それは壮大な物語だった。歴史で習うようなそれだけでは無い光と闇の戦いの話。 「…そして、我々の祖先は闇の根源を封じる事に成功したのだ。代償は決して小さなものではなかったがな」 「「「「「…」」」」」 「後はそなた達も歴史で学んだ通りだ。戦争により日本と呼ばれた国は分断され、今の二国に分かたれた」 「封じたのに……ですか?」 「もうそれだけで終わるような状態では無かったのだ。憎しみはあまりにも大きくなりすぎていた」 その憎しみをどうにかするのは二つに分けるしか無かったのだと成明は言った。分けなければ日本そのものが消えていたのだと。 「それまでのようにそれぞれの一族が付き合っていくとまた同じような事が起きるかもしれない。故に交流を断つ事にしたのだ。我が一族にのみその事実を残して」 「家に詳しい内容が伝わっていないのはだからか……」 「現実味は無いけど、それが昔起きた事なのよね……」 「それはそれとして、俺達をここに呼んだ理由は?わざわざ断ち切ったモノを引き寄せてまで」 大輔にしては真面目な顔でそう問う。確かに今の話からして五百年ずっと不干渉を貫いていたのだろう。それを破ってまで接触しなければいけない事態にでもなっているというのだろうか? 「…闇が目覚めようとしている」 「! それは封印した?」 「そうだ。だからこそ、私は呼んだのだ。神獣の主の血を継ぐお前達を」 「神獣の……主」 「そなた達には神獣の力を得る為の試練を受けてもらいたい」 成明は静かにそう告げた。
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