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当然、このタイミングでの寺川の転勤に私は仕事を辞めてついていくつもりだった。
寺川もそれを望んでくれていると信じていた。
けれど、寺川の出した答えは遠距離恋愛。
正直、自信がなかった。
けれど慣れない土地で新しく始める事業の主力メンバーとして選ばれた寺川にはその上、私の人生まで背負い込むことは出来なかったのだろう。
私はただ側にいて寺川を支えたい、それだけなのに。
けれど出会った頃よりも確実に年を重ねた私は聞き分けの良い女でいるしかなかった。
寺川の判断に頷くしかなかった。
笑顔で送り出すことしか出来なかった。
初めの頃でこそ、電話やメールのやり取りも頻繁にしあった。
休暇を使い寺川の住むところに訪れたりもした。
けれど本格的に寺川の仕事が忙しくなるに連れ、電話やメールの間隔が自然と空いていき、私が彼の元を訪れる事もなくなった。
一度、有給を取り、こっそり寺川の元へと向かった事がある。
寺川には内緒で。
寺川のオフィス近くでこっそり隠れて待っていた。
寺川、驚くだろうな。
洗濯物、ためてるんじゃないかな。
ちゃんとご飯食べてるのかしら。
今日は無理でも明日は美味しい手料理を沢山作ってあげよう。
次から次へと溢れてくる思いは次の瞬間、泡のように弾けて消えてった。
オフィスから出てきた寺川の隣に並び笑顔を向ける同僚らしき女の人の姿を見た時
パチンって弾けて全てが消えてった。
寺川も笑顔だった。
ずっと私だけに向けられていた笑顔。
ずっと私の居場所だった寺川の左側。
それはもうないんだなって
遠い空の下、思った。
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