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「えっ、な、なんで?何してる……きゃっ」
次の瞬間、息も出来ないくらいの強さで抱きしめられた。
傘が落ちて拾わなくちゃって思うのに、見動き取れない。
「由香里…、俺、今、由香里を抱きしめてるんだよな。」
耳元に愛しい人の声が響く。
「ごめん。俺、無理してた。ずっと物分りの良い男のフリしてた。」
「ん?なに?」
「本当はあの時、異動が決まった時、お前を連れて行きたかった。けれど、急だったしお前の気持ちもあるだろうからって言えなかった。」
「寺川……」
「それにーーーあのメール貰った時も嫌だって本当は言いたかった。お前を失うなんて考えられないって。」
「……本当なの?」
「ああ、けれどお前の気持ちを考えると俺のエゴで縛り付ける事は出来ないって思ったんだ。」
「だけど……私以外に好きな人……」
あの時、寺川の所へ行った時に見た光景が鮮明に浮かぶ。
「後にも先にも俺が好きなのはお前だけだ。信じられないなら今、この場で叫んだっていい。」
寺川の真剣な言葉は私の心に真っ直ぐ響く。
けれどーーー
「寺川………あのさ、」
「ん?」
「ちょっと恥ずかしいかも………」
「えっ?」
「周りからの視線が…」
大きなツリーの周りには遅い時間とは言え、まだまだ人はいる。
突如始まった告白劇に興味津々の視線が突き刺さる。
「そ、そうだな……えっと……取り敢えず、傘さすか?」
「そうだね…って雨、止んでる。」
いつの間にか雨は上がっていた。
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