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仕事を終え新幹線に飛び乗りやって来た寺川は泊まるところも決まってない。
注目を集めたため、何となくその場に居づらくて自然と足は私の家へと向かっていた。
それに少し雨に濡れてしまったのもあるしこのままでは確実に二人共風邪を引いてしまう。
その帰り道も私の右手はぎゅっと寺川に繋がれたままだ。
何か話そうと思うのに突然の出来事に気持ちばかりが溢れて言葉が上手く出てこない。
家に着くと順にお風呂を済ませ、漸くゆっくりと話せる状態となった。
けれど、何から話せば良いのか、何から聞けば良いのかさっぱり分からない。
お互い正座して向かい合わせに座りただただ微妙な時間が過ぎていく。
目の前に寺川がいる、それだけで嬉しさとこれは夢なんじゃないかという不安とが入り混じって複雑な思いになる。
私の戸惑いを見て寺川が不安げに聞いてくる。
「あのさ、ちょっと冷静になってきたんだけど…お前の気持ちって聞いてなかったなって。俺、自分の気持ちばっかり押し付けて…。」
申し訳なさそうに言う寺川に私も応えた。
「毎日が…雨月のようだった。どこを探しても姿は見えなくて。だけど今、目の前に寺川はいる。もう離れたくない。ずっと側で寺川の事を見てーーーんっ、ぅん……っ」
最後まで言わせて貰えなかった。
寺川はその先に続く私の言葉ごと奪い取った。
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