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イリュージョンなどでよく使われる、『美女消失』という言葉。
美女でなくても美女というところが、見ているこちらの方が恥ずかしく思えてしまう。
だが、万人にひとりくらいは、美女だと認知しているかもしれないので、あながち間違いでもない。
近年のイリュージョンは、テレビではあまり放映されなくなった。
まるでネタのように、種明かしを始めたからだ。
大仕掛けになればなるほど、その穴も多いということで、それほど視聴率が取れなくなったのだろう。
だが、ギャンブルが盛んな街では毎日のように行なわれている。
世界中からマジシャンではなく、イリュージョニストが集結してくる。
その中でも絶世の美女とうたわれた、デニス・キーンが恐るべきことをして世間を騒がせた。
彼女は生粋のアメリカ人だ。
よって、アメリカ原住人であるインディアンを先祖にもつ。
その容姿はまさに奇跡だと誰もが思うことだろう。
顔も肉体も、これほどまでに洗練された女性はどこにもいないはずだ。
ハリウッド女優も顔負けのデニスは、この日を境に忽然と姿を消したのだ。
姿を見せないことが、このイリュージョンの成功なのかは理解に苦しむが、舞台スタッフがどこを探しても彼女はいなかった。
消える理由があるのかと興行主は調査したのだが、その様子はまるでなく、どこに行っても彼女は人気者で、消えた理由がまるでわからなかった。
誰かとトラブルがあり消されたのかとマスコミは騒いだのだが、そのようなこともまるでなく、人当たりのいい彼女は万人に愛されていた。
ということは、愛していない者もいたはずなのだが、その証拠は出てこない。
よって、彼女の意思で表舞台から消えたことになる。
当然のように、透明人間説、吸血鬼説、エイリアン説も浮上してゴシップ誌を大いに賑わせたが、ただそれだけのことだった。
彼女はどこに消えたのか、これは永遠の謎となった。
… … … … …
数年経ったある日、ニューヨーク市街地が卑劣なテロにさらされた。
さらにその魔の手はワシントンDCにまで及び、多くの政治家が命を落とした。
「今こそ復讐の時っ!!」とデニスは馬にまたがり、アメリカ全土を彼女の手中に収めるべく戦い始めたのだ。
軍事施設は、仲間のインディアン、ならびに多くのネイティブ・アメリカンにより全てを確保した。
彼女はイリュージョニストとしての全てをこのテロ行為につぎ込んだ。
デニスの出現により、ネイティブ・アメリカンたちが始めて手を組んだ。
デニスはその知名度により、ネイティブ・アメリカンのリーダーとなったのだ。
デニスは迫害された先祖の霊に向け、全てを取り戻したと報告した。
わずかに残ったインディアンの血を引く者、そしてそれを含めたネイティブ・アメリカンが、このアメリカに居住権を得て、それ以外の者は全て奴隷とした。
だがもちろん恩赦もある。
ネイティブ・アメリカン以外の者に亡命する権利を彼女は与えた。
しかし行くあてのない者は、一生奴隷として働かなくてはならない。
「アラスカに居住権を与える」とデニスは冷酷に言った。
まさに今の彼女の美しさは、この世ならざるものだった。
―― 完 ――
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