イエローきゅうり

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イエローきゅうり

 目が合ってしまった。 逸らそうとしたが、すごい眼光に目を離せないでいる。  近づいてきた。河童である。頭に乗った皿が月明かりで光っている。体は粘液に覆われているのか、やけにてかてかしている。  まずいと思った。奴は俺が持っているバナナをきゅうりと勘違いして欲しがっているようだ。  目がさっきより光っている。のそりのそりと川の向こうから歩いてくる。目を疑ったが、川の上を歩いている。  動けなかった。河童が怖いのではない。  あの異様な雰囲気に圧倒されてしまっているのだ。  逃げ出す以外の選択肢を考えた。  そうだ、バナナを食えばいい。そのくらいなら動くはずだ。  右手で左手に持ったバナナの皮を剥いていく。一枚、二枚…あ、ちょっと大きさが不均等になってしまった。  バナナは熟していた。手がちょっとぬめぬめしてしまい、仕方なく右手を川の水で洗う。  河童はまだこちらを見て距離を縮めてくる。  いや、厳密にはバナナを見ている。黄色と緑色の区別もつかないのか、と今さらながら思った。  石が飛んできた。理解が一瞬遅れてしまったが、奴である。奴の仕業に違いない。バナナから垂れている皮の一枚を鋭い石で斬ってきた。水かきがついているくせに、とんでもなくコントロールがいい。  バナナを食うなという牽制だと、俺は判断した。  だがここで食わねば何をされるかわからない。河童が何をしてくるかなんて、一般常識をひと通り学んだ俺でも想像がつかない。  バナナを見た。次の瞬間、俺は食べていた。  石がたくさん飛んでくる。ときどき鋭い石が飛んできて、耳とかに当たって痛い。  くそ、と思いながらもぐもぐしていた。目を閉じて耐え続ける。痛みが段々わからなくなってくる。石ころを受けすぎた。でも、バナナが甘くておいしい。  俺は河童がどこまで近づいているかが怖くなり、食べ終わったバナナの皮を捨てた。  川下で、水しぶきが上がる音に気づいた。  俺は恐る恐る目を開けた。そこには、仰向けになった河童が川に流れていた。  俺は動けないまま、月明かりに光る割れた皿が小さくなっていくのを見ていた。
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