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「……ふーん。心配してたこととは、ちょっと違うみたいで安心した。ごめんね、彼氏と電話なんて嘘嘘。ところで、どこでどうやって君はお姉ちゃんと知り合ったの? 二十四歳のOLと、中学生が?」
「どこって……」
明日磨が言葉に詰まった。
「言い淀むようなとこなんだ?」
実奈実の意地悪い言い方に、明日磨はきっと視線を尖らせた。
「……薫子さんは、僕を助けてくれようとしただけです」
「だから、どこでどうやって?」
明日磨は、うつむいて唇を噛む。そのまま、一分、二分。薫子はまだ戻らない。
「あー……ごめんごめん、追い詰めるような言い方して。そっか、何か、君の事情にかなり踏み込んじゃう話なんだ? なしなし、忘れて」
「薫子さんのことが、心配なんですね?」
「え?」
「だから、聞きたいんですよね?」
「まあ、……まあね。お姉ちゃん真面目なんだけど、お人よしで、危なっかしいとこあるからさ」
「でも、そのために僕を傷つけるようなことは不本意だと」
「そりゃそうだよ」
実奈実の強気な瞳が、今は愛嬌を込めて笑っていた。さっきまでの挑戦的な態度よりもこちらが素なのだろうと分かる、人好きのする微笑み方だった。
明日磨が、深々と息をついた。
「いいんです。別に、内緒にしなきゃいけないことじゃないですから。僕と薫子さんが会ったのは、この四月です。この近くの、いわゆる墜落ビルの屋上で」
「え」と、その意味を汲んだ実奈実が、わずかに身を引いた。「それって、あの」
「あの自殺の名所です。薫子さんが、僕を助けてくれました」
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