月下美人

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「この国ではね、月は皆に愛されている。不吉な嫌われ者ではないよ? 確かに月はどんどんやせて、真っ暗になってなくなってしまう。けれど、それからまた出てきて、太ってゆくだろう。 月は何度も死んで甦る。 この国では月は再生、生まれ変わりの象徴なんだ」 「生まれ変わり…」 ああ、彼は頷いた。 「…そうだな。 それに、どちらかといえば、僕も月の方が好きだ。 白く美しい輝きや、時によって常に形を変える姿が、どこか(きみ)に似ている」 「わ、私に?」 思わず声をあげた私に、彼は少し照れくさそうに笑いかけた。 「うん。 月の夜、異国の戦地で君を見つけた。 痩せて、真っ黒な顔で泣いていた君が…ここで字を覚え、声を取り戻して“大哥(にいさん)”と呼んでくれるようになった。 こんなに綺麗な姿になって」 ファサッ。 彼の手が、私の金の髪をひと房掬う。 「時を経て、形を変えていく君。 かつては大切な妹のように想っていた(リィ)が、今ではかけがえのない恋人だ。 君から突然キスをされた時は、かなり驚いたけどね」 「嫌! もう、それは言わないで…ん、んんっ」 反論は、すぐに唇で封じられてしまった。 さっきよりもずっと深い大人の口づけは、何度も角度を変えながら、より深く、より激しく。 唇が離れると、にいさまは蠱惑的に微笑んだ。 「知っているか? 月にはもうひとつ、意味がある。『秘めたる狂気』。一見儚く、たおやかな君が、その下に燃えるような情熱を隠しているかのように」 「にいさま?…きゃっ!」
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