もしも私達がいつかここから居なくなってしまうとしても(金継ぎ師弟の恋にはなれない恋の話・〇.七)

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   *  目が開いた。  視界が、ぼやけてる。  周りが少しずつ、見えてくる。  私は、いつも先生が寝てるソファに、横になってた。  先生は肘掛けに頭を乗せても脚が落ちちゃってるけど、私は背が低いから、座面にちゃんと納まってるみたい。  先生、また仕事してる。  きれいだなー。  先生みたいな、別に格好良くもなんともない男の人にきれいって言うのは変かもだけど、仕事している先生は、ほんとに綺麗だ。  作業してる佇まいに、ぼーっと見とれる。  先生と知り合ったきっかけは、もともと、おーちゃんのためだった。おーちゃんの持ってた割れてた蓋を、直すため。  それを直して、成り行きで、事務とか手伝う事になって……今ここに居て、こうやって先生が仕事するのを見れてるのなんて、すごい偶然の結果なんだよね……。  何かがぶわっと湧き上がって来て、涙になってぽろぽろ落ちた。ちょうど涙の落ちるとこには、ちゃんと手拭いが敷かれてた……先生の癖に、用意が良いよ……。 「目ぇ覚めたのか」 「……はぃ……邪魔して、ごめんなさい……」  音は立ててなかった筈なのに、見つかった。  邪魔しちゃったって思う反面、ほんとに見ててくれたんだって、ほっとする。 「もうちょっと寝てろ。終わったら送ってく」 「……先生?」 「何だ」 「私、先生の弟子になりたい」 「……ああ。」 「それで、ずっと、ここにいる……」 「ああ、良いから好きなだけ寝とけ」 「ん……」  目を閉じる。  おやすみ、って言われた気がしたけど、夢かもしれない。  先生が、あんなに優しく「おやすみ」なんて、言う訳無いから。  すごく良い夢だったけど、優しくなくても現実の方が良い。  今度目が覚めた時は、ちゃんと夢じゃなく覚めますように。  
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