もしも私達がいつかここから居なくなってしまうとしても(金継ぎ師弟の恋にはなれない恋の話・〇.七)

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 おーちゃんが、いなくなった。  いろんな知らせ、いろんな儀式、いろんな役割。  従姉妹だけれど上京してからは、別に住んでる姉妹みたいな仲だったから、なんやかんやと忙しすぎて、ただただやることをこなすことだけで、毎日が過ぎた。  一週間経って、自分も周りも、やっと少し落ち着いた。部屋でひとり、ぼーっとする。  田舎からお母さん達が出て来てぎゅうぎゅう詰めで泊まってたから、部屋で一人になるのも久し振りだ。  会社に電話しなきゃと思って、ろくに見てなかったスマホを取り出す。  ……めったに見ない色で、光ってる。ショートメールだ。  ショートメールなんか送ってくる知り合いは、一人しかいない。お世話になったりお世話したりしてる、先生だ。  とりあえず、ショートメールは後回し。会社の上司に電話する。  有給のお礼と、来週から宜しくお願いしますって挨拶。  従姉妹は四親等だから、会社の規定に忌引きは無い。従姉妹の不幸で何日も休んだ事に、軽く嫌味を言われる。うちの従姉妹は普通じゃなくて、特別親密なんだけど。  それが、やっと終わって。  溜め息を吐きながら、スマホの上のショートメールのマークをタップした。 『エプロン忘れてるぞ  洗わないから取りに来い』  句読点も打たない二行だけのメッセージが、表示される。  面倒くさい。行きたくない。  なんにもしたくない。  エプロンなんか知らない。そのまま放っとかれて、カビとかキノコとか、生えちゃったらいい……けど。  次までにちゃんと洗っておかないと、教室に参加することも、お手伝いすることも、許して貰えない。  先生(この人)は、洗わないって一度書いたら、絶対に洗ってくれない。可哀想だなとか忙しいだろうとかわざわざ言うのもとか、そういう配慮とかは、驚くほどしない人だ。  それに、教室を延期してもらったお詫びとお礼と、再開のお願いの電話もしなくちゃいけないんだった。  そうなると、電話するより、行っちゃった方が早い。  立ち上がって、上着だけ替える。  靴とバッグも普段のに替えて、あとはそのままで、部屋を出た。
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