もしも私達がいつかここから居なくなってしまうとしても(金継ぎ師弟の恋にはなれない恋の話・〇.七)

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   *   「……ん?」  目が、開いた。  ……え。私、寝てたの。  ここどこ……部屋じゃない。  部屋じゃ、なくて。 「……っ!?」 「おー。起きたか」 「っ先生っ?!私なんでっ」 「……お前、よく寝たみたいだな……」  通常運転に戻ったか、って言ってるみたいに聞こえたけど、なに、通常運転って。 「……ああっ!エプロン!エプロン取りに来ておにぎり食べて眠くなって、…………っ!!」  思い出せない……っていうか、思い出せるけど、思い出したらいけない気がするっ……!! 「目ぇ覚めたなら、帰るかー」 「ひっ!!」  先生がソファの近くまで来て、びくっとなった。  ……うん、思い出さないよ?!思い出さないけど、顔が熱っ……! 「何騒いでんだよ。ほら、立て」  手を差し出される。掴むかどうかちょっとためらう。 「あん?眠たいちーちゃんは、抱っこで玄関まで連れてって欲しいのか?」 「……っばかっっ!!!!」  にやにや言われて、むっとした。握力検査みたいに、ぎゅーっ!!と目一杯手を握る。悔しいことに全然効いてなかったみたいで、ほいっと簡単に立ち上がらされた。 「お靴、履けまちゅかー?履かせてやろうか?」 「ばかばかばかぁっ!セクハラですっ!!」  げらげら笑いながら、雪駄を履いてる……ほんとに腹立つっ!!  ぷんぷんしながら早足で歩くけど、普通に歩いて付いて来る……ほんっっと、腹立つなあっ!  「先生!送ってくれるお礼です、ご飯食べて帰りましょ!」 「また食うのかよ……」  すごく嫌そう。ご飯でこんなにげんなりする人って珍しいよ。知ってて言ったんだけど。 「さっきのは、昼ご飯!今度は、夜ご飯です!」  私達がこうやって並んで歩いてるのも、ふざけてるのも、一緒にご飯をたべるのも、ものすごい偶然の結果かもしれない、けど。 「そうだ!ロシア料理とかどうですか?」 「また妙なもん食わされんのかよ……」  もしも私達がいつかここから居なくなってしまうとしても、今は。 「妙じゃないです、美味しいですよ!!あ、こっちです、こっち!」  私は先生の手を取って、青に変わった横断歩道を駅に向かって渡り始めた。              【おわり】  
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