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温室を後にしたオーラリーは例の手紙を片手に家の中を歩き回っていた。
ひそかに……実は……最も頼りにしていた人物に空振りした今、一体どうすればいいのだろう? さっぱり分からない。
手紙の意味も。次にとるべき自分の行動も。
普段は使うことのない手摺りを使い、螺旋階段を上る。しかし例の手紙に気を取られ過ぎていたのか、つまずき、前につんのめった。
「危ねぇだろ。前見て歩けよ、リリー」
そう声をかけてきたのは弟のグレン・キースだ。咄嗟に支えてくれたらしく赤毛が揺れ、胴に腕が回っていた。ロシアに暮らす彼だが、今は妻とともに実家へ帰省しているのだ。
「あっ、ごめんね」
また、弟たちや両親は愛をこめてセカンドネームの「リリアンヌ」から彼女を「リリー」と呼んだ。
「どうした? なんか考え事?」
姉弟で揃いの碧眼がオーラリーの顔を覗き込む。「まぁね……」歯切れ悪く顎を引く。彼女が手紙に視線を落とすと弟も後を追った。
「なんだそれ」
「古典暗号らしいの。〈最初は白の1〉だって」
オーラリーの台詞を受け、グレン・キースが手紙をじっと見つめる。弟はますます精悍な顔になった。目元がわずかに動く。
「〈最初は白の1〉? ……それ誰から聞いた?」
「オゥエシーズさんだけど」
「…………へぇ……意外と頭回るのか」
温室で別れた義妹の名を挙げると、彼の口許が歪む。双子の弟の妻をやはり良く思っていないのだろう。
ややあってグレン・キースが呟く。
「区切ればいいんじゃないか?」
下唇を親指でグッと押し上げ、姉を一瞥する。「え?」困惑するオーラリーを余所に「たとえば……適当に」と指でスラッシュを書く。
【1222/113/53111/56】
急いでテーブルに向かい、弟の指の動きをなぞると、ただの数列は不規則に区切られた桁に変化した。
彼は「数列だけを見たってだめだ」と言う。
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