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⒍
この家には不運な人間が三人いる。またその全員が男だった。
一人は父親で、間近で繰り広げられている娘の恋に頭を抱えているに違いないと言った。
次に使用人の若い男。その人を突き動かさんとする熱情は火を見るより明らかだが、懸命に蓋をしているらしい。
最後は自分なのだという。悩み、苛立ち或いは行く末に心を弾ませている身内を見るのはもううんざり。
「一体なにを言うんです。キアラン坊っちゃん」
だらしなく唇を下げる雇い主の末息子にオスカーは苦笑いで応じた。少年がじめついた目をする。
「弱虫」
どうしてこうも小生意気な息子ばかりなのだろう! 人当たりのいい笑みを浮かべていたオスカーの口角が震える。
「わたしはごく個人的な話をしに来たわけじゃありませんよ。ところで週末の宿題は後どれだけ残っているんです?」
「じゃあなんでずっと窓の外を気にしてるのさ」
まったくこの減らず口はどうしてくれよう。オスカーは細く息を吐き、窓辺に歩み寄る。少年の視線を感じたが……好奇心に溢れている。使用人はカーテンをさっと引いた。
末息子はますますぶすくれ、オスカーはますます深い溜息を吐いた。「……誰です? 余計な入れ知恵をしたのは」少年を一瞥しつつ、どうせあの次兄に決まっていると思った。
オスカーが少年の勉強を見るため役立ちそうな本を取りに書斎に向かうと、あの美男子が窓台に上がり、読書に耽っていたのだ。
自分が少し上手くいったからって――二十三のくせして既婚者・九歳の子持ちだ――彼の娘は「あの人とまともに遣り合おうなんて無茶よ」と言った。「ちょっとクレイジィだし」だとか。
「誰でもないよ」
キアランが言った。
「ただ皆知ってる。父さんもね」
その一言を耳にした瞬間、オスカーは目を剥いた。職務を放棄して一目散に部屋を飛び出していく。
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