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Light My Fire! - ハートに火をつけて! -
⒈
「身分差の乗り越え方なんて、私が知りたいわ? 未だに」
艶やかなブルネットの巻き髪を右の首筋に寄せ、彼女は言った。「そうでしょ?」と一足先にミルクティーに口をつける。
使用人の青年が淹れる紅茶は、こっくりとした深みを放ち、オーラリーもつられてティーカップに手を添えた。
「私はどうしたって元売女で、彼はどうしたって著名な俳優。キャリアもある。今更それを埋めようたって無理な話」
紅茶を口に含んでティーカップから離れた唇がどうにも扇情的で、女の自分でもその色気にあてられる。
「……飲まないの? お義姉さん」
猫のような黒い瞳が不思議そうにオーラリーを見ていた。
「飲む……けど……」
五つ上の義理の妹は飾らず蓮っ葉な物言いをする。しかし彼女自身は「飾るものがないのよ」と言った。
指先でティーカップを支えて、おずおずと口に運ぶ。こんなにも女としての魅力に溢れる義妹を前にすると、緊張せずにはいられない。
だが、舌が慣れた紅茶の味がオーラリーをなんとか落ち着かせてくれた。
「嬉しそうな顔しちゃって」
温室に備え付けられたテーブルの席で義妹が忍び笑う。
「オゥエシーズさん!!」
目に見えてからかわれているのだと分かり恥ずかしくなったが、彼女は、しぃっと唇に人差し指を当てる。
「だめよ、あんまり騒がないで。そうじゃなきゃ私、ジルに叱られるもの」
義妹は冗談なのか、たまに適当なことを言う。あの弟が、こんなことで怒るわけがない。なんなら話に入ってくるくらいだろう。女性より目の付け所がいいときがある。
「申しわけないけど、貴女の目論見ははずれね。残念だけど」
「すごくあてにしてたんだけど……」
なにせ相手は我が弟が十年かけて手に入れた女性だ――二人はかつて子役と成人した娼婦だった――身分差を絵に描いたような組み合わせ。
「そりゃあ相手によっては出方というものがあるわ? 若さも手伝うでしょうし。でもあなたたちはもういい大人で、貴女は品行方正なお嬢様。冷静さを欠いてはいけないけれど、後ろ暗いことなんて一つもない。ただ胸を張っていればいいだけ」
「それが難しいんだもの。だから……」
「そうね、これが解けないようじゃまだまだ難しいでしょう。……これって古典暗号じゃないかしら」
ほっそりとした指が差したのはオーラリーが持っていた一枚の手紙だ。
宛名はなく、十四桁の数字だけが並んでいる。他に目を引くところと言えば、数字が色とりどりに塗られていることくらいだろうか? しかし頭の「1」だけは元の白い紙のままだ。
【12221135311156】
オーラリーは未だに数列の意味が分からず、紅茶を飲むついでに温室へ持ち寄ったのだ。「古典暗号?」と首をひねる。なぁに? それ。
「いい? きちんと見るの。この数列も相手の目もね。男の感情は全部眼差しに出るんだから」
「それ、自分たちの話?」
「もちろん経験談よ、でもあの子は全身。時おり犬の尻尾が見えるんだもの」
最後に彼女は「〈最初は白の1〉」と言った。
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