生き延びた月の下

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泣けないもんだな、やっぱりね。 親が死んだら泣くもんだとぼんやり思ってたのに。畳の部屋には私と妹しかいない。弔問客の帰った和室は耳が痛くなるほど静かだった。妹は棺を覗いて母に話しかけている。私はそれをわざとらしいなとか白々しいなとか冷えた感情で眺めることしかできない。 「おかあさん、みんな帰っちゃったね、寂しいねえ。私とお姉ちゃんが今夜は一緒にいるからね」 「……あんた、赤ちゃんはいいの?」 妹は振り返り、うん、と頷いて見せる。もともと白い顔が今はさらに蒼白で、目は真っ赤にはれている。 「赤ちゃん、じゃなくて大志よ。お姉ちゃん、ちゃんと名前で呼んで」 「ごめん。ええと、大志くんは大丈夫なの?」 「裕也が見てるから」 「そう」 妹の夫の名前は裕也だった。息子の名前も夫の名前も全然憶えられる気がしない。 「お姉ちゃん、泣かないんだね」 「……あんたはすごく泣いたみたいね」 「そりゃだれだって……お母さんが死んじゃったら、泣くでしょう」 妹は声を震わせた。顔がゆがみ、まだ出るんだ、と思うほどの大粒の涙が頬を伝った。 「お姉ちゃんは薄情だよ。私親になったからわかる。お姉ちゃんみたいな子どもだったら、私だってお母さんと同じように接するよ」 ぐさりと心臓を刺される。私は目を伏せて妹の視線から逃れようとした。親になってわかることが我が子をかわいがらない理由だなんて、そんな悲しいことがあるんだろうか。だとしたら私の結婚も出産もしないという生き方は正しいんだな。
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