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◇
一週間後、空野いさめはちゃんと店に戻ってきた。
ちょっとはにかむようにして笑って、「えへへ」なんて可愛かった。
奇しくも、じーちゃんもタイミングを同じくして戻ってきた。
こちらは「がはは!」と元気に笑って若返ったようだった。
どちらも命の危険があった。確かに、一度死にかけた。
そう聞いている。
空野いさめの方は、そのお兄さんから。
じーちゃんの方は、母さんから。
心臓が止まって、死んだかと思ったと。
涙ぐみながら、母さんがそう教えてくれた。
「ねえ、きいて! 夢の中でね、金魚が私を迎えにきてくれたの。だから私は帰ってこれたんだよ!」
空野ひさめは、そんなふうに僕に微笑んだ。
「おっ、奇遇だな。おいらもそんな感じよ。どこの金魚かと思ったけど、なんだ、こはく、また金魚の世話してたのか!」
じーちゃんは、「どら、みせてくれ!」なんて言って店の中に入った。
……僕らは、そんな二人をいつも通り出迎えた。
……いや、出迎えたかった。
「ごめんね」
僕が最初に空野いさめにかけたのは、そんな言葉だった。
そうして、水槽を指さした。
三匹いたはずの金魚は、一匹になっていた。
「……死んじゃったんだ」
僕の声に、空野いさめは少し震えて、それから僕の胸に飛び込んできた。
声にならないような嗚咽をあげて、泣いているようだった。
「頑張って、世話したんだけど」
「うん」
「赤い斑点が、できて、よくならなくて」
「うん」
「弱って、いって、どうにも、ならなくて」
「うん」
そんな僕らの頭を、わしゃわしゃとじーちゃんが撫でた。
「よくやったよ、こはくも、金魚も」
ずず、とじーちゃんから鼻を啜る音がした。
見上げると、じーちゃんもボロボロ泣いていた。
「おいらとお嬢さんを、助けてくれたんだなあ」
僕らは水槽をみた。
残った一匹も、こちらをじいとみている。
「金魚にはなあ、身代わりになって死んじまうって話があるんだ。きっと死んだ二匹はよ、お嬢さんと、おいらを助けてくれたんだなあ」
それは傲慢な話なのかもしれない。
身勝手な話なのかもしれない。
けれど、でも、涙が出た。
死んだときにも出たけれど、その時よりももっと出た。
三人で痛みを分け合わないと、どうにも耐えきれないくらいに、胸が痛かった。
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