わすれもの屋と三匹の金魚。

6/8
前へ
/8ページ
次へ
◇  一週間後、空野いさめはちゃんと店に戻ってきた。  ちょっとはにかむようにして笑って、「えへへ」なんて可愛かった。  奇しくも、じーちゃんもタイミングを同じくして戻ってきた。  こちらは「がはは!」と元気に笑って若返ったようだった。  どちらも命の危険があった。確かに、一度死にかけた。  そう聞いている。  空野いさめの方は、そのお兄さんから。  じーちゃんの方は、母さんから。  心臓が止まって、死んだかと思ったと。  涙ぐみながら、母さんがそう教えてくれた。 「ねえ、きいて! 夢の中でね、金魚が私を迎えにきてくれたの。だから私は帰ってこれたんだよ!」  空野ひさめは、そんなふうに僕に微笑んだ。 「おっ、奇遇だな。おいらもそんな感じよ。どこの金魚かと思ったけど、なんだ、こはく、また金魚の世話してたのか!」  じーちゃんは、「どら、みせてくれ!」なんて言って店の中に入った。  ……僕らは、そんな二人をいつも通り出迎えた。  ……いや、出迎えたかった。 「ごめんね」  僕が最初に空野いさめにかけたのは、そんな言葉だった。  そうして、水槽を指さした。  三匹いたはずの金魚は、一匹になっていた。 「……死んじゃったんだ」  僕の声に、空野いさめは少し震えて、それから僕の胸に飛び込んできた。  声にならないような嗚咽をあげて、泣いているようだった。 「頑張って、世話したんだけど」 「うん」 「赤い斑点が、できて、よくならなくて」 「うん」 「弱って、いって、どうにも、ならなくて」 「うん」  そんな僕らの頭を、わしゃわしゃとじーちゃんが撫でた。 「よくやったよ、こはくも、金魚も」  ずず、とじーちゃんから鼻を啜る音がした。  見上げると、じーちゃんもボロボロ泣いていた。 「おいらとお嬢さんを、助けてくれたんだなあ」  僕らは水槽をみた。  残った一匹も、こちらをじいとみている。 「金魚にはなあ、身代わりになって死んじまうって話があるんだ。きっと死んだ二匹はよ、お嬢さんと、おいらを助けてくれたんだなあ」  それは傲慢な話なのかもしれない。  身勝手な話なのかもしれない。  けれど、でも、涙が出た。  死んだときにも出たけれど、その時よりももっと出た。  三人で痛みを分け合わないと、どうにも耐えきれないくらいに、胸が痛かった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加