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◇
じーちゃんが本格的に店に復帰して、僕は代理店長兼店番の任を正式に解かれた。
空野いさめも学校に復帰して、僕も、それまでの通り、普通に学校に通った。
あれきり僕らは顔を合わさなかった。
気まずかった。だって、僕はみんな揃って待ってることができなかった。
身代わりになるにしろ、何にしろ、少なくとも僕は、命を二つ、失ったのだ。
もしかしたら、僕の方が彼女を避けていたのかもしれない。
「夏木くん」
だから、こんなふうに図書室で呼び止められたときは心臓が飛び出るかと思った。
「そ、空野さん」
「む」
彼女は唇を尖らせた。
「いーちゃんて呼んでもいいって言ったのに」
「え、ええ、それは、」
「何いってるの! 金魚水族館つくるって約束したでしょ?」
僕は言葉に詰まってしまった。
だって僕は金魚を救えなかったのだ。
「私ね、あれから色々考えたの。あの子たちがくれた命だから、あの子たちのために使いたい」
「……!」
「一緒にたくさん勉強して、救える金魚を増やそう? 私たちのできることなんて、それくらいだもの!」
ああ。
彼女は、なんて強いのだろう。
差し出された手が、まぶしい。
まぶしすぎて、よく見えない。
──よく見えないけれど。
「……うん」
僕は、ちゃんと目を開けて、その手を取った。
二人なら、その目標に届くような気がした。
僕は、いなくなったあの子たちに、胸を張れるように。
この子と、いーちゃんと、生きていく。
「あ、そうだ。手術の前、夏木くんがくれた手紙、あの、金魚の絵のやつ。額縁にいれて飾ってるんだけど、絵もうまいんだね!」
「え、うそ、やめてよ。ちょっと、待って、ねえ! ……いーちゃん!」
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