わすれもの屋と三匹の金魚。

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 ──九月の終わり頃。  祭囃子のうるさい声を遠くに聞きながら、静かな祖父の店でぼんやりしていた。  祭りは苦手だ。人混みがとくに。  にぎやかなものを遠くで眺めているぶんには困らないのに、当事者としてかかわろうとすると吐き気がした。行く気はまるでしなかった。それに店番を頼まれていた。  祖父の家はいわゆる骨董屋だ。  古い品物を中心に何でも取り扱っていて、値段もピンキリである。  高校生の僕には手が出ないような値段のものだってあるのに、と口を尖らせたら祖父は病室のベッドで申し訳なさそうに笑って、小遣いを弾もう、といった。 「……別に、お金が欲しかったわけじゃないのに」  自分でも何でそんなことを言ったのかは定かではない。  ただ、このお店にいるのがつらかったのか。店番なんてしたくなかったのか。祖父が、入院することが嫌だったのか。……僕には、到底どうにもならないことだっていうのに。 「すみませーん」  そんな時だった。  どうせ人なんて来やしないから、といった祖父の言葉を裏切って、入口のドアが叩かれた。  からんからんとベルを鳴らして、人が入ってくる。 「あの、看板に『わすれもの屋』って書いてあったんですけど、あの……こういうものは引き取ってもらえますか? お祭りで、誰かが忘れていったみたいなんですけど」  女の子だった。  僕と同じくらいの、女子高生だった。  彼女が何の悪びれもなく持ってきたのは──小さな、三匹の命だった。
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