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昼食を食べ終え、ゴミをまとめてベンチを立つと、男は当たり前のようについてきた。
ウチのオフィスが入っている小さなビルの入り口の前まで来ても、まだついてくる。
「ちょっと、どこまでついてくんのよ」
ビルの入口前で仕方なく足を止めて、言う。
仔犬も「えー?」と不思議そうな顔をして足を止めた。
「だって俺の会社、ここのビルの中だもん」
「げっ」
「え~、なにその反応、酷いなぁ。俺的には、運命感じちゃったりする場面じゃねー?と思うわけですが」
仔犬が仔犬らしい最高に適当な言葉を返してくる。この軽口自体は今に始まったことじゃないなのでそれはいい、それはいいんだが。
なんだそれ。運命って。やめてくれ。
遺伝子レベルの相性だとか運命だとか、言ってることの重さとやってる事の軽さの対比が酷いな。
このビルは八階建てだが小さめで、ワンフロアに五十~六十人も入れればいい方の、小さなオフィスビルだ。
まさかそんな狭いビルにやっちまった相手が潜んで居ただなんて信じられ……信じたくない。
取り敢えず、絶対的に皺が集まってきているであろう自分の眉間に指をおくと、軽く揉み揉みと揉みほぐす。ついでに、色んなものを落ち着けるために長く息を吐き出した。
なんだか激しく複雑な気分でビルのエントランスを仔犬とくぐる羽目になった。
エントランスと言っても、小さなビルなので、家の玄関に気が利いたようなものだけれど。
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