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ザリ、とヌル、というのが混ざったような感触に、不本意ながらも心臓がドクリと跳ねた。
普通は嫌悪感を感じるべきところなのだろうが、顔は好みなせいなのか、何故だろう、そこまでそれを感じない。
こいつ、人生得してやがる。ただしイケメンに限るって何処かで誰かも言ってたもんな。
続けてゆっくりと指と指の間を舌が這う感覚が脳まで辿り着いて、私は耐え切れずふるりと肩を震わせた。
手馴れた手つきで両の手首をつかまれて、壁に押し付けられる。
おー、壁ドンだ。流行りも廃れたと思っていたけど、実際にやられるとこれは脳天にジワジワ来るな。
こんな事されてる時に、ドキドキもアワアワもしない。なかなか珍しい経験だな、なんて何処か冷めた心地で男に目線を合わせた。男はフっ、と面白そうに口の端を持ち上げる。
「なんてねー、さすがに冗だ──」「別に……いいよ」
私は心底どーでもいい気分で、軟派な男の軟派な言葉に肯定の言葉を返した。
失恋の寂しさが、少し薄らいだらいいな、なんて思ったんだ。
顔が好みなのだ。ついでに言うならカジュアルな服装も細身のスタイルも、声もいい。人生に一回くらいこういう火遊びで心を慰めることが、あっても許されると思わないか。
……まぁあれだ。自棄糞ってやつだよ。
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