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少しの間目を丸くした男は、何を思ったのか、そのまま顔を近づけてきた。
男の表情からは何も感情が読み取れなかった。
軟派男らしく、ラッキー、とでも思っているのだろうか。
壁に押し付けられるように、蜜の味がしそうなほど甘く口づけられた。
薄暗い部屋の中は存外色々な音が溢れていて煩いはずなのに、外界の全ての音が遠のいていく気がする。
男の舌に自分のソレを巻き取られるぬるりとした感覚と、男の指が自分の指と指の間に入ってくる感覚だけに神経が集中して、このうえなくゾクゾクした。
指の間が性感帯だっただなんて、今までこれっぽっちも知らなかった。
……というか、うーん、お見事。上手。
さすが、遊んでらっしゃる、ということか。
一回限りの火遊びの相手としてこれ以上相応しい条件は中々ないのではなかろうか、なんて、自分のしていることを無理矢理にでも肯定してやりたくてそんなことを考えた。
本当、何してるんだろう、私……。
虚空に夢を描けるなら、そこに何を見ようか。
ぼんやりと天井を見つめていたら、「目くらい、閉じよーか」と言って男の手が私の視界を覆った。そして視界を奪われたまま、再度角度を変えて唇を食まれる。
とゆーか、今更だけど……ここでこのまま、する気なのか……?
「……ねぇ、ちょ、こんなとこで、すんの?」
気付いたら服の下に滑り込んできていた手のひらの暖かさに逡巡しつつ、やっと解放された口で、なんとか口に出した。
が、イヤイヤ、ナニするためにあるような場所だって、おねーさんも聞いたことくらいあるでしょ?と、当たり前のように返された。
まぁ、そうゆうことに使ってるやつがいるということぐらいは、聞いたことあった。あったけど。
まさか自分がそんなことする場所になると思ってなかった。
ナンパされてほいほいついてきたのは初めてだけど、こんなにエロまでの展開がはやいなんて知らなかった。いや、煽ったのは自分なのだった。今更だけど。
私が本当に抵抗しないことを見て取ったのか、男の唇がそのまま私の身体の色々なところを滑っていく。
耳、うなじ、鎖骨、……胸。
軽薄な言葉と態度とは裏腹に、この唇だけはとても優しかった。
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