90人が本棚に入れています
本棚に追加
男の少し茶味掛かった髪がふわりと頬に触れる。コロンやシャンプーの匂いとはまた違う、どこか甘い匂いが鼻腔を擽った。
なんだろ…ほんのり甘くて、いい匂い。そう思うと同時に、私は自分がつい先ほどまで汗びっしょりだったという事実に思い至った。
「あの……私、汗めっちゃ掻いてた……から」
「そりゃ、炎天下にあんだけ長時間座ってれば、汗も掻くよ」
妙な気恥ずかしさを感じてぼそりと言うと、さもありなんとそんな答えが返ってきた。
長時間……いつから座ってたっけ。この男はなんでそれを知ってるんだろう。
少しの疑問が浮かぶが、とりあえず続きを伝えることにする。
「えっと、だから汗臭い……かも」
なんでこんな恥ずかしいことを自白しなければならないのだろう。
私は身を捩りながら自分の上に落ちる男の胸を少し力を入れて押し返した。
「おねーさん知ってる?」
胸を押されて一度身体を持ち上げた男が、どこか楽しそうに目を細めた。
「え?」
「相手の汗の匂いをどう感じるかで、遺伝子レベルの相性が分かるんだって。
……おねーさんのは、甘いね。」
男が私の首筋に再び顔を埋めながら言った。
遺伝子レベルの、相性……?
再び落ちてきたほんのり甘く香る男の匂いに、頭がくらくらした。
最初のコメントを投稿しよう!