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最初はあんなに優しく触れていたくせに、どこでスイッチが入ったのか、飢えた狼のように豹変した男に、私は結局ガツガツと貪り食われた。
遺伝子レベルの相性がある、というのを信じるのならば、そうなのだろう。何度でも襲ってくる波に浮かされながら、薄っすらとだけれども身体が理解していた。
ちゃんと避妊もしてくれた。持ち歩いている周到さはさすが軟派男ということだろうか。
一度果てても収まらず、やべ、と小さく零す男が何処か可愛く見えて、経口避妊薬飲んでるから、大丈夫、と言ったら、「病気もってるやつだっている。そゆこと言わない方がいい」と、少し怒った顔で言われた。
後で考えたら、我ながら酷い思考力と発言だったなと思う。可愛く見えたとかも、意味がわからん。熱に浮かされ過ぎるにも程がある。
果てたばかりで上手く力の入らない身体を壁に預けてぐったりとしていると、狼からすっかり仔犬モードに戻った男が言った。
「ねー、また歌ってよ。俺、おねーさんの声好き」
……歌うのは好きだ。
求められなくとも、まだまだ失恋歌が歌い足りない。
せっかくカラオケに来たのに、歌わないなんて勿体なさすぎる。
ついでだからナンパ男と遊んじまった歌でもあったら歌ってやりたい。パッとそんな曲思いつかないけれど。
ただちょっと待ってほしい。
身体に全く力が入らない。インターバルが必要だ。
「あと、5分、待って……」
ぐったりとしたまま答える。
この行為って、こんなに疲れるものだったのか。知らなかった。
少し身体を動かしたら、行為の余韻にふるると身体が震えた。
その様子を見て、ぶっは、と仔犬が破顔する。
「へにゃへにゃじゃん、おねーさん、可愛いー」
頬杖をついて楽しそうに笑う仔犬にぼんやりと視線を投げ、心にもないことを、と口には出さず頭の中で悪態をついた。
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