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失恋歌ばっかり歌っていたせいだと思う。
というか完全にそのせいだ。
私は気付いたら、歌いながら泣いてた。
どうしてこう歌詞ってやつは心臓にザクザクくるんだろうね。歌うと余計にクる。
くっそー、心が痛い。
ボロボロ涙をこぼしながら歌っていたら、それに気付いた仔犬が何やらぎょっとした顔を作った。
と思ったら、慌てたように私を抱き寄せて、そっと腕に力を込める。
ふわりと香る仔犬の甘い匂いに包まれて、私は本能に逆らわずそのまま頭を預けた。
「いきなりどーした。ひょっとして辛かった?それとも痛かった?」
ちょっと声が狼狽えている。
悪い狼にはなりきれないらしい。やっぱり仔犬だ。いや、子狼か?
大丈夫、痛いとかなかった。どちらかといえば……まぁそんなことは口に出して言わない。
私はただふるふると首を振った。
「おねーさんがあまりに可愛い反応するし…あとおねーさんの声がやば可愛いくて。ちょっと歯止め効かなくなっちゃったんだよねー。ごめんなー」
よしよし、と本気なのかなんなのか分からない態度で抱きすくめられたまま頭を撫でられる。
頭ナデナデとか、ナンパ男でなければトキメキポイントなんだけどなぁ、と残念に思いつつも、仔犬のせいではない、と頭の中で否定した。
なんならちょっと失恋の痛手を別の何かで上塗りしてくれたことに対して、僅かながら感謝すらしている。
失恋の痛手は無理矢理違う痛みと虚しさで上塗りしたはずなのに、涙が出てきてしまうのは不可抗力なのだと思う。だから……ちょっとこの思いの外心地の良い胸を貸してくれると有難い。
私はそのまま男の胸に顔を埋めて、声を噛み殺しきれずに泣いた。
だって、やっぱり何だかんだ辛いんだもん。
半年も保たなかったけれど、ちゃんと好きだったのに。
「お前には俺が居なくても大丈夫だろ?」って、じゃぁ貴方様を必要としてんの誰だよ。他に女居たのかよ!
仔犬はなんだか困ったような諦めたような顔で背中をポンポンとしてくれていた。
「まぁわからんが、泣け泣け」って言ってくれたので、遠慮なく泣いた。
おかげでちょっと、ここに来てやっと少しすっきりした気がした。
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