encounter

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 会計を終えて建物から出る為に階段を降りながら、他愛もない会話をする。    「ねー見ました?今の店員さんの顔。『彼氏さん何泣かせてんですか!』って目が言ってたよね」    「……ええと、申し訳ゴザイマセン……」    散々泣いてすっきりした私は、見事に目を真っ赤に腫らしていた。    「いえいえ、代わりに十分(たの)しませて頂きましたノデ。これぐらいの風評被害はお安いもんです。ご馳走様でした」    仔犬はご丁寧に手を合わせた。  そうかい、十分お楽しみになられたのであれば良かったよ。  「じゃ、また歌聞かせてね。俺、おねーさんの歌も声も、やっぱ好きだわ」    そんなことを言いながら、仔犬は連絡先もなにも聞くこともなく、あっさりと手をぴらぴらさせながら雑踏に消えていった。  聞かせろと言いながら、また聞く気ゼロじゃないか。  後腐れを感じようもない、清々しいまでのバッサリだ。きっともう、会うこともないだろう。    私はぼんやりと天を仰いだ。  あー、やっちまったぜ。(……二重の意味で。)    まぁいいか。一人で泣くよりすっきりした気がする。  というかそう思っておこう。まじめに考えたらなんだか惨めだ。    こーいうのもひと夏の経験というやつだろう。  よし、そうしよう。全部夏が悪い。    私は全部夏のせいということにした。  秋も近付く夏空は思いのほか天高く、18時を過ぎたけれどまだ明るい。  土曜の夕方、繁華街は昼間とはまた別の賑わいを見せ始めていた。 私の中にぽっかりと出来た空洞が、薄明るい中で過剰に主張し始めたLEDネオンを見て、ちょっと眩しい、と泣いた。
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