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1-嚆矢
「9月から、東京へはお前が行ってくれ」
上司の大滝部長から、いつもの調子で井村5分ちょっといいかとフロアにある会議室に呼ばれ、放たれた第一声。
5分と言っても、5分だった試しもなく、急ぎの案件に没頭している最中でも、そんなものはお構いなし。
ちょっといいかと聞いてくる時には、もう自席から立ち上がりこちらに向かって歩いて来ているのだから、絶対命令のようなものだ。
余りにも唐突な内示に、これが噂の…他人事のように、今まで転勤していった同僚達が漏らしていた愚痴を思い出していた。
急すぎなんですよ、先に打診があっても良さそうなものなのにと…。
しがないサラリーマン、断る選択はあり得ない。
「はい」
ふたつ返事で即答し、今後の引継ぎなどは柳井課長と進めるように指示を受けて、5分もたたないうちに会議室を出たのは幸か不幸か、この時が初めてだった。
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