明治恋物語

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 去年の12月に『西郷隆盛銅像』が上野に建てられた。  その時は銅像の前で、西郷隆盛についての話を先生が熱論していた。先生と有作を見つめる周りの視線が恥ずかしかった。  そうして、また今年の10月には浅草で水族館という物が開館する。  もし8月に開館されていたら、先生と水族館に行けたのに。来年まで追わずけなのは、つまらない。  きっと水族館の件と有作の想いも一緒に先生へと伝えたら、と考えてしまう。  つい考え事で気を取られてしまい、勝手に自分の握った筆が、紙に書き出しそうとしていた。  慌てて、意識を戻すけれど先生の想いが文章に溢れている。  顔を赤らめて紙を丸め、ポイッとカゴに入れた。  気を取り直し、新しい紙に書く。  水族館の件で先生がどんな表情をするか想像をしながら、文通の中に書き留めた。次いでに、今の近況報告も書いて便箋を送る。  用事を終え、便箋を出しに行った。  よし、と満足げに家へ帰る。  案の定、先生なら『有難う御座います、来年の8月に見に行きましょう!』と言う筈。  もっと言うならば、手を両手にあげたまま走り、転ぶ姿が目に浮かぶ。
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