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やかましく鳴り響く警報。あまりの大音量に頭がフラフラする。
頭がフラフラしているせいか地面もフラフラしている気がする。
いや、どうやら実際に地面もフラフラしているようだ。
安定感の無い形の調味料の瓶が倒れた。
窓の外を見る。
建物の隙間の晴天。狭い空を区切る電線。その向こう。
巨大な生き物がうごめいている。
また現れたのか。
いや、警報が響いている時点であれが現れたのは確定したようなものだ。
窓の外から室内へと視線をめぐらせる。
結果を予想しながらも一応、とりあえず。
なかば義務感に追われるような気分で家中まわって同居人の姿を探す。
生き物の気配はない。
また戦っているのか。
窓の外を見る。
建物の隙間、遠くに見える巨大な人影。
姿かたちは違うが、あれは確かに同居人の姿だ。
窓の前に座り込んで見つめる。
暴れていた巨大な生き物が断末魔をあげ霧散する。
人影は空の向こうへと飛び去って行った。
しばらく大きな動きのない狭い空を見つめてみた。
何もない。
早々に飽きていつものソファの定位置に戻った。
一瞬座ってみて、しかしゆっくりと落ち着く気分にもなれず。
何となく家中を回ってみてから、再度、いつもの定位置に落ち着いた。
警報がやんだ世間は静かだ。
まどろみ始めた頃、玄関の開く音がした。
「ただいまぁ~……今日はお出迎え無しですかぁ……」
やかましい声が家中に響く。
面倒なのであげかけた頭をおろし、寝たふりをした。
いや、実際に眠いのだから、ふりというのもおかしい。
寝ている。自分はまさしく寝ているのだ。
「あーふわふわぁーあったかいねぇー」
同居人が腹のあたりをモッサモッサとまさぐっている。
うっとうしい。
「今日も頑張ったよぉ~トラちゃんのために働いて稼いで世界を救ってきたよぉ~」
べつにそんなことしてくれなんて頼んでない。
恩着せがましいやつだ。
うっとうしいので腹を見せてやる。
「あーーーおなかモッフモフだねーーーーー!」
テンション上げてきやがった。
ますます面倒くさい。
同居人が腹に顔を埋めてくる。
癪なことだが、世界を救うためには必要なことなのだろう。
なにしろ自分がいなければ同居人は生きていく甲斐が無いらしいので。
本人がそのように言っていたので。
世界を救う同居人が生きていくためには自分が必要なのだ。
だから今日も、自分は世界のためにしょうがなく生きていてやるのだ。
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