1最強のわがまま集団

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「……昨日。ちょっとね」 クールな面差しで人気の夏川主将にクラス女子の注目が集まる中、そんな人気者の彼に、頭から水を掛けて濡らし迷惑を掛けていた彼女は重ーい足取りで彼の元に向かった。 「夏川先輩。昨日はすみませんでした。抽選はできましたか?」 そんな気が重かった美咲に、夏川は不思議そうな顔で美咲に向かった。 「ああ。それはもう良いんだ。ところで君は、真田翼先輩の妹か」 「?よくわかりましたね」 「……やっぱりそうか!この制服に名前が書いてあったし。そうか。やっぱり!」 そういう夏川はぱっと眼を見開いた。この時、ふと妙に教室の同級生の熱い視線を集めていると感じた美咲は、夏川を渡り廊下へ連れ出した。 「夏川先輩。私、今朝、先輩の制服を返そうとクラスに行ったんですけど、先輩は朝連でいなかったので、クラスの人に預けました」 隣を歩く夏川は、ふっと微笑んだ。 「ああ。受け取った。それに洗ってくれてありがとな。で、その事なんだが」 恥ずかしそうに髪をかき上げた夏川は、立ち止り彼女を見つめた。 「真田。頼む……まだこれ、俺に貸してくれ!」 そういって彼は着ているシャツの胸の部分をわしづかみした。 「何でですか?」 「だってな。これを見てくれ!」 興奮した彼はスマホを腰のポケットから取り出し、肩越しに画像を見せてくれた。試合のトーナメント表だった。 「見てくれ、これを!……まだ信じられない!強豪が全て向こう側で激突するから、俺達に優勝が見えて来たんだ」 「その事と兄の制服が何か関係あるんですか?」 思わず首をかしげた美咲の肩を夏川は嬉しそうに叩いた。 「ああ!翼先輩の制服のご利益じゃないかっ思ってさ。俺としては大会が終わるまでこれを着ていたいんだ。わがまま言ってすまないが、どうだろう?」 ……あんな兄貴の制服でそこまで嬉しいとは。 「いいですよ。後で返して下されば」 「本当に?やったー!これで勝てる!」 まるでシュートを決めた様に嬉しそうに拳を作った夏川に、美咲は優しい目で見ていた。 「あ?ところで。君の連絡先を聞いていいか?何か合った時のために」 「連絡先……?ハ、ハックション!すびばせん……」 鼻がむずむずした美咲は彼に背を向けてポケットからティッシュを出して鼻をかんだ。 「風邪か?」 「ううう。大丈夫れす。今日はまっすぐ帰りますがら」 「あの。連絡先を」 「美咲!次の授業、音楽室だよー」 自分を呼ぶ親友に、美咲は大きく返事をしてから夏川に向かった。 「今いぐよ。ぐす。あの、先輩。試合がんばっでくだざい……」 少し熱を帯びてきた彼女はぼおっとしながら、音楽室へ向かった。 そして授業終了後、本格的に具合が悪くなってきた美咲は、友人達には部活や彼氏とデートで忙しいと言われてしまい、仕方なくバス停まで続くサルスベリの並木道の木陰を一人で歩いていた。 「おーい!真田!待ってくれ」 「何ですか?」   振り返ると背後から駆けて来たシトラスの香りは夏川だった。 「……やっと追い付いた。実は今日は部活が休みなんだ。それより君は、昨日濡れたせいで風邪引いたんじゃないか?」 「そうかもしれません。朝は平気だったんですけど。体育のプールから調子が悪くて」 「そうか、じゃあ俺が家まで送ろう」 「……辞退します」 「何?」 隣を歩く彼は、眉間に皺を寄せていた。 「夏川先輩にそんな事させたら私、学校中の先輩のファンに殺されますもの。それに一人でも帰れますので、そんなに心配しないでください」 美咲は彼に軽くお辞儀をしてから歩き出した。でも帰る方向が一緒のようで、彼は彼女の後ろを黙って歩いていた。そして赤信号で止まった時、南風に乗ってシトラスの香りがふわとした。 「真田。済まないがやはりカバンを持たせてもらうぞ」 「は?」 そういって夏川は強引に美咲のカバンを奪った。信号が青になった時、背後からはバスが迫っていた。 「ほら。あれに乗るんだろう?行くぞ」 彼にそっと背を押された美咲は、一緒にバスに乗り結局家まで送ってもらった。 「で。君の家は?」 「あそこのコンビニの裏。バイクが置いてある家です」
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