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「僕は陽司さんに呼ばれたんだけど、何この靴の数?」
「……まあ、上がってよ」
不機嫌な幼馴染みはいつものスリッパを履き、リビングへ進んだ。
「お?尚人か。なんだ今頃のこのこ来て」
「……陽司さん。アンタが俺を呼んだんだろう?しかし透さんがいるのは驚きだな」
「尚人もメンバーなのか?」
そんな不貞腐れている尚人に翼は、椅子に座れと急かした。
「良いから黙って尚人も食え!せっかく美咲が作ったんだから。ってあれ?餃子が」
……無い。
みんなの視線は箸を持っていた夏川に刺さった。
「……おい美咲。夏川は何個喰った?」
兄の真顔に美咲は目を瞬きしてから応えた。
「60個かな。みんなが来る前から食べていたから……」
「すまない!普通に美味かったから、つい」
なんか申し訳なさそうにしている夏川に美咲の方こそ申し訳なくなってしまった。
「いいんです!大丈夫!尚人の分は、蟹チャーハン作るから、待っててね!」
「蟹?僕も食べたい!陽司も食べるだろう?透は?」
「ああ。あるなら食べる」
「さて、と……俺も参戦するか。可愛い妹の為に!」
「あーあ……翼のその図太い神経……。俺に分けてくんねえかな……」
肘をついて呟く陽司に、上着を渡した尚人もキッチンにやってきて美咲の手伝いをした。
そしてリビングから聞こえる楽しげな声をBGMにして、彼女はあっという間に蟹チャーハンを完成させた。
「お待たせしました!」
美咲はテーブルに兄貴、夏川、ロミオ、陽司の順にチャーハンを置き、そして山盛りを尚人に出した。サッカー小僧達はいただきますと同時にスプーンを握った。
「それにしても夏川。お前は主将としては少し線が細いと思っていたが、俺の食欲に付いてくるとはな。俺はお前を認めてやろう」
「ありがとうございます」
「何バカ言ってんの翼?透の事、キャンセル料理を食べてくれる便利な奴だと思っただけでしょ」
「……ロミオ。俺もそう思った。翼が人を褒めるなんてありえないからな」
「ね、美咲!これだけしかないの?しかも僕だけ蟹が少ない!」
「はいはい。待ってね尚人……。すみません。夏川先輩。みんなわがままばかり言って……」
美咲はカニかまぼこを尚人のチャーハンの上にほぐして掛けながら彼に謝っていた。彼はそれを見てクスとほほ笑んだ。
「いや。そんなことは無い。翼先輩?俺で良ければいつでも呼んでください」
「夏川……。いや、透でいいよな!今日からお前もチーム翼のメンバーだ。今後も美咲を助けてやってくれ。あ、もうこんな時間か?高校生諸君、喰ったら帰っていいぞー帰れ帰れ!」
こうして夕食は済み、客人達は靴を履いた。
「夏川先輩。今夜は呼び止めてすみませんでした。お家の人は心配してないですか?」
「メールしておいたから問題ない。じゃ、これで」
広い背のサッカー小僧達に手を振った美咲は、そっと夏の夜空を仰いだ。そこには星が輝いて夏の大三角形を作っていた。
つづく
<2019・9.18>
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