第1章 忍びの村

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第1章 忍びの村

 少女の行く手に、村が見えてきた。  生い茂る木でうまく隠されている。場所を知らぬものはそのまま素通りしてしまうだろう。  少女は頼りなさげに立っている細い木に手をつき、ほっと息をついた。  ——とりあえず、今日の任務は終了か。  そう思ったとたん、背後でガサガサと草を掻き分ける音がした。すばやく剣の柄に手をかける。振り向きざま、剣を突きつけた。後ろにいた人物が硬直する。少女より少し背が高い。しかも、男物の服を着ている。少年のようだった。 「あ……、あや……は」  少年の唇からかすれた声がもれ出た。少女は静かに息を吐くと、剣をおろした。 「何だ、(らん)か。驚かせるな」 「ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど」  蘭と呼ばれた少年は、少女に笑いかけた。 「まさかここにいるとは思わなかった。任務は終わったの?」 「お前こそ何故ここにいる」  少女は剣を鞘におさめ、少年を見上げた。 「川に行こうと思ってたんだ。魚を取りに。前、兄さんが刀を使って魚を一気にとるところを見たから、それをやってみようと思って」  うれしげに話す蘭を、少女は冷ややかに見つめた。 「……そのわりに、刀を持っていないようだな」 「え? ……あっ、本当だ。刀、家に置いてきちゃった…」  取りに行かなくちゃ、と村を振り返る蘭の横で、少女がため息をついた。 「森には魔物はいないが、獣ならいる。刀を持っていないと命を落とすことだってあり得る。今度からは気をつけろ」  さっきは刀を向けて悪かった、と少女は付け足すと、さっさと村のほうに歩き出した。 「あ、待ってよ彪刃(あやは)!」  あわててその後を追う。少女は立ち止まり、感情のない瞳で蘭を見据えた。 「何だ、まだ用事があるのか?」 「いや、特にこれといった用事は、ないけど…」 「なら、呼ぶな。仕事がある」  少女は淡々と言い放つと、きびすを返し、また村に向かって歩き始めた。  蘭がまた後ろからついてくる気配がしたが、放っておくことにした。今、自分が最優先すべきなのは自分に課せられた任務だ。蘭のことではない。
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