第1章 忍びの村

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(……また、くだらないことを考えてしまったな)  彪刃は、かすかに自嘲の笑みを浮かべた。 (蘭のことより、任務を果たせ。私が優先すべきなのは、村のことだ)  自分に言い聞かせるように、心のうちでつぶやく。それから、後ろを振り返った。さも当然のように、そこに蘭の顔があった。 「おまえ、いつまでついてくるつもりだ」 「え?」  そんなことを聞かれると思っていなかったのだろう。蘭はきょとんとした表情のまま、彪刃を見つめた。  彪刃は思わずため息をついた。 「いつまでついてくるんだ」 「あっ、えっと……。そのへんまで」 「そうか。じゃあ、ここで別れよう」  彪刃はそっけなく言い、踵を返した。  遠ざかろうとする彪刃を、蘭が慌てて呼び止める。 「待って彪刃、家まで送るよ」  彪刃は蘭をちらりと見ただけで、すぐに顔をそむけた。 「断る」 「でも」 「仕事があるといっただろう」  不満げな蘭の声を遮り、鋭く言い放つ。 「邪魔するな」  再び歩き出す。なおも言い募る蘭の声が聞こえたが、振り返りはしなかった。  ——これでいい。  ふっと吐息をもらす。  そう、これでいい。関わり、何かを共有しあうことは隙となる。誰も信じない。誰にも心を許さない。それでいいはずだ。  なのに、心がざわめく。 (——何だ、この胸騒ぎは)  そっと胸を押さえる。胸の内でうごめく、この訳のわからない何かを一刻も早く封じ込めてしまいたかった。  ——あいつのせいだ。  小さく舌打ちする。  ひどく無邪気で、人を疑うことを知らない。無知で、純粋で、愚かだ。  その愚直さが、そのまっすぐなまなざしが、時にわたしを戸惑わせる。  ——迷うな。  指を固く握りこむ。  迷ってはいけない。惑い、揺れることもまた、自分には許されていない。  一つ息をつき、歩調を速める。  気が付けば、蘭の声はもう聞こえなくなっていた。
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