第1章 忍びの村

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 「——父上、ただいま戻りました」  彪刃は家の戸を後ろ手で閉めつつ、声を張り上げた。奥の障子ががらりと開く。 「戻ったか」  彪刃の父——秀人(しゅうと)は静かに彪刃の元へ歩み寄る。彪刃と同じその黒い瞳が、わずかに細くなった。右目の上に長い傷が生々しく残っている。 「……今日はどうだった」 「二人ほど、人がいました」 「殺したのか」  硬い表情のまま、父が聞いた。 「はい、掟のとおりに」  こともなげに彪刃は告げる。秀人はそうか、と小さくつぶやいた。 「わたしはこれから、村長(むらおさ)のもとへいく。お前も来るか」  数秒、間が空いた。思わず父を見上げる。 「村長の家へ? 父上がですか?」 「そうだ」  鷹揚にうなずく父を、彪刃は不思議そうに見つめた。父が村長のもとへ行くということは、それほど珍しいことだったのである。 「やはり……ここのところ、外の人間が頻繁にこの村を探しに来るのは、外で何かあったからなのですか?」  声を低めて尋ねる。秀人は分からぬ、と首を振った。 「だが、何かあったと考えるのが自然だろう。ここまで頻繁に外の使者が来るとなればな」  秀人は黒い瞳を伏せ、ため息をついた。  彪刃たちの言う「外」とは、この外に広がる大陸のことである。忍びとは違うさまざまな種族の人間が暮らすところ。忍びは、はるか昔から村を囲む森を隔てて、大陸の人間と決別しているのだ。 「村に危険が及ぶかもしれぬ——」  父がつぶやく。彪刃は思わず顔を上げた。 「父上、それはどういう」 「邪魔するぞ」  突然、彪刃の背後にある戸が開いた。驚いて飛びすさる。無意識に、剣の柄に手が伸びた。
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