第1章 忍びの村

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(りょう)殿! 何故ここに」  秀人があわててその場にひざをつく。突然現れた青年は目元を細めて笑った。 「秀人、そんなに堅苦しくしなくていい。お前が頭を下げるべき相手は、俺ではなく俺の父上の方だろう」 「しかし、良殿は村長のご子息。無礼な振る舞いなど到底できませぬ」  青年——良は、思わず苦笑をこぼした。良は蘭の兄にあたる人物だ。 「秀人は硬すぎる」 「どうぞ、何とでも申してください。——それより、良殿」  父の声音が変わる。良の笑みが、すっと消えた。 「今日、わざわざここにいらした理由を、お聞かせ願いたいのですが」 「……やはり、俺が自らここに来るのは不自然か」  良が静かに問いかける。秀人は頭をたれた。 「……恐れながら」 「では、やはり良殿は村長の命でここへ参られたのですか」  彪刃は良を見上げる。良は軽くうなずいた。 (——やはり、そうか)  彪刃の中で、そんな声が上がる。そもそも、村長の息子が守村掟の家へ来ること自体、非常に稀だ。だが、村長の命なら納得できる。村長は守村掟の主であり、忍びの頂点に立つものなのだから。 「……それで、村長はなんと」 「単刀直入に言おう」  良は秀人をまっすぐに見下ろした。 「先ほどの、村に危険が及ぶかも知れぬという話は本当か」  一瞬、息が止まった。  心臓が耳元でどくり、と脈打つ。背筋が凍ったかと思われるような感覚に襲われる。  不覚だった。人の気配くらい、すぐに見抜けたはずなのに。  何故注意を怠ったのか。あのような発言——人に聞かれたら身を滅ぼすことくらい、わかっていたのに。  村に危険が及ぶ——その言葉は、言い換えてしまえば守村掟が村を守ることができない、ということだ。
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