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「……聞いて、おられたのですか」
父が、聞いた。しぼれたような、かすれた声だった。
良が視線をそらす。
「全部、聞いた。……すまぬ」
気まずそうに良が告げる。秀人は頭をたれたまま動かない。
「……秀人、外で何か変化があったというのは本当なのか」
「――おそらく」
秀人は低い声で答えた。
「私も外の事情は知りませんが、ここまで頻繁に使者が来るとなれば」
そうか、と良がつぶやく。
「では、それゆえに村に危険が及ぶかも知れぬと」
「……そのように考えております」
「……理由はそれだけか?」
良が秀人をじっと見据えた。その瞳が鋭く光っている。
疑っているのだ。村に危険が及ぶという、守村掟として重大な発言を聞いてしまったのだから。
彪刃にさえ、何故父がそんなことを言ったのか理解することができなかった。守村掟は村を守るためだけに存在する。村を守ることができなければ、守村掟が存在する価値などないのだ。
――それなのに、何故こんなことを。
どんな状況でも、決していうことのなかった言葉だったというのに。決して口だそうとはしなかったのに。
父にそんなことを言わせた原因は何か。
――自分。
唐突にその言葉が浮かぶ。彪刃は自分の中で高ぶった感情を押さえつけるように、深く、ゆっくりと呼吸を繰り返した。
そうだ――父は今までこんなことを言わなかった。彪刃が任務を課せられる、その前までは。
だとしたら、父がこんなことを言った原因は、自分にもあるのではないか――。
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