7人が本棚に入れています
本棚に追加
感情
僕がまだ7歳の時だ。
いわいるヤンキーと呼ばれる人達が悪い人ばかりではない、ということを知ったのは。
母と父と僕の3人家族。
いたって平和で、一般的な家庭だった。
父の転勤で東北から中部へと、生まれ育ったこの町を出てすぐのこと。
母と公園に向かう途中で僕は迷子になった。一瞬の出来事だった。
僕は近くにあった廃工場になんとなく惹かれて近づいた。
そこには見たことのない数の男の人がたくさんいた。
僕の目には、鉄がぶつかり合い、それが人に当たり、血が散る。そんな光景が飛び込んできた。
衝撃が走った。
「邪魔だ!」
その声にびっくりして見上げるとさっきまで遠くで光っていた鉄の棒が、僕の頭に振りかざされそうになっていた。
恐怖で足が動かず、僕はズボンを握りしめ、目をつむった。
「関係ねぇヤツ巻き込むのは違くないか?
だからいつまでたっても俺らに勝てねぇんやで!」
その声とともに僕の体は宙に浮かんだ。
「掴まっときよ、もう怖くないからな!ママのとこ行こーな。」
「うん!」
僕はその静かで、重みと優しさのある声に安心してその声の主の肩に掴まった。
「いちー!!」
「あ!ママ!」
僕は母の方を指差した。
「いち!よかった!ありがとうございます!!」
母は何度も頭を下げながらお礼を言っていた。
「いいえ。慣れん土地ではしっかり手を握ってあげてくださいね。
この辺りは治安もよくないので。
お母さんも、気ぃ付けてください。」
「はい!ありがとうございます」
母は深く深くお辞儀をしていた。
その横で僕はその人の後ろ姿をじっと見ていた。母と話している間に見せた優しい笑顔が頭から離れなかった。
「・・・・・あれが、積北組・・・。」
母は確かに小さな声でそう言った。
僕はそれから2年間慣れないインターネットを使い、たくさん調べた。もちろん『積北組』の事を。
この2年間でいくつかの事がわかった。
積北組というのは世間で言うヤンキーの集まりだということ。
積北組は、優しさと、謙虚さ、礼儀を持つ社会貢献型。ということ。
なぜ、会ってもいないのに社会貢献型なのかはSNSを見ればすぐだった。
積北組を検索にかけると、出てきたのは、重い荷物を持ってくれたとか、ビラまきを手伝ってくれたとか、募金を見かけたとか良いことしかなかった。
会ってお礼を言いたいと思ったのに、SNSであるサイトに目がとまった。
積北組は神出鬼没で滅多にお目にかかれない。
積北組を見たら1日良いことが起きると噂されていたのだ・・・。
「会えないのか・・・」
僕はため息交じりに呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!