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第十一話 パーティーを組もう ~生意気女が仲間になった件~
朝起きると……。
ノルが俺の上にのかって寝ていた。
まるで騎乗するかの様に。
「のわあああああああああ! ノル起きろ!」
ノルを抱き起こしたが目覚める気配が無い。
「アルス! あなたこんな小さな子どもに手を出すなんて! 変態よ!」
「ご、誤解です! イズン師匠!」
「アルス! あなたそんな趣味があったの!? ノルちゃん逃げて!」
「ご、誤解だ! フレイヤ!」
フレイヤを迎えに行ってから一ヶ月。
毎朝の恒例行事になっている。
俺の部屋で、ノル、フレイヤ、イズン師匠がベッドに寝て、俺は床で寝ている。
そしてノルが夜中のうちに俺の布団へ潜り込んでくる。
この一ヶ月、毎朝起きて白い扉の先の訓練場で特訓して寝るだけの生活だった。
自身のRPにより部屋の明かりや様々な器具を利用するのだが、
全く意識せずに使用できるようになった。
RPがこの部屋の維持のために消費されているのかさえ自覚が無い。
「師匠。もうそろそろこのワンパターン展開やめましょうよ。」
「そうさね。更に仲間が増えたらこの部屋にも入れないし、そろそろみんなの部屋用意しないとね」
「仲間が増えるニャ!」
「そうさね。
今のままだと前衛で戦えるのがアルスだけでバランス悪いわさ。
ギルドにパーティー登録するついでにパーティーメンバー募集もかけるわさ」
「それは心強いですね。良い方が見つかればいいですね」
フレイヤもすっかり馴染んでしまっている。
しかし、イズン師匠の言う通り今のメンバーではバランスが悪い。
後衛の回復役が神官のフレイヤ。
後衛の攻撃役が魔道士のイズン師匠。
後衛のサポート役が運び屋ノル。
そして前衛は俺のみ職業は無職。
神官、魔道士、運び屋、無職。
こんなパーティー、2,3回クリアーしてやりこみまくって飽きる限界を越えて初めて組むレベル。
前衛に戦士か武道家が欲しい所だ。
---
「ハァーイ! ボーイ! お久しぶりね」
ダイアナは相変わらずセクシーだ。今日もスリット全開。おっぱい全開だ。
「ボーイ。イズン様以外にも仲間が二人。どうやら順調なようね。」
「はい、お陰様で」
挨拶もそこそこにイズン師匠はすぐに本題に取り掛かった。
「ところでダイアナ。アタシ達パーティー組みたいの登録お願い。あと前衛職の募集ね」
「ヘー。 イズン様がパーティー組むだなんてあの時依頼ね」
「その話は無しだわさ。登録頼むわよ。こっちがフレイヤに、こちらがノル」
「フーン。神官のフレイヤに運び屋のノルちゃんね。頑張ってね」
「はいニャ!」
「はい、ありがとうございます」
書類におのおの右手の親指で拇印を押した。
全員が押し終わると書類が一瞬光った。
「ハイ! じゃ、登録は完了。メンバー募集もかけておくけど期待しないでね。今はどこも人手不足なの」
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ささやかなお祝いということで、ギルド一階の酒場へやってきた。
俺とイズン師匠、フレイヤはエール。
ノルはミルクで乾杯だ。
「カンパーイ! パーティー結成おめでとう!」
「この肉、エールに合いますね!」
鳥の手羽先のような甘辛くスパイシーな一品だ。
「それはジャイアントードの指だわさ。3メートルぐらいのカエルね」
「う、うげえ。カ、カエル……」
カエル料理というのがあるらしいがカエルの姿を想像すると微妙だ。
「うまいニャ! うまいニャ! うまいニャ!」
ノルは何でもいいのか、いつも「うまいニャ」言ってるな。
「あら、アルスさん。こちらのカエル美味しいわよ。以前食べたフランス料理のそれより美味しいわ」
フレイヤはさすがお嬢様だ。フランス料理でカエルなんて食べたことあるなんて。
俺たちが、ささやかにパーティー結成を祝っていると遠くのテーブルで派手にガラスが割れる音がした。
「おい! ねーちゃん! 俺たちのパーティーに入れてやろうってんだ。いいから着いてこいよ!」
ゴウリキの奴だ。隣にはホソカワがいる。
「ワタシの名前は、アイラ・エリザベート。イギリス王家の正当な継承者よ。なにゆえパーティー参加を強制する!」
アイラだ。
毎回ああやって名乗ってるのか。
「ほっときなさいよ。アイラだっけ? あの男たちより遥かに強いわさ」
「師匠。ただ巨乳のアイラが気に入らないだけじゃないですよね?」
「何言ってんのさ! 失敬ね!」
やはりアイラの巨乳が許せないみたいだ。
まあ、アイラなら大丈夫だろう。
ホソカワ達に負けることは無い。
なんて思っていたら案の定アイラに一蹴された。
「す、すいません! 誘い方にちょっと力が入っただけです。許して下さい!」
床に倒されたゴウリキが情けなく土下座して謝まっている。
ホソカワのやつは隣でのびている。
現実世界では、いつも強気な二人がここまで落ちぶれると多少可愛そうに見えてきた。
「これはこれはパーティーの者が失礼したようですね。
まあ、私共のパーティは200名を越えるので正確には中隊(カンパニー)ですが」
ヒムロだ! 現実世界の俺の派遣先の会社、つまりフレイヤの父親の会社の法務部の弁護士だ。
アイツは目的のためには手段を選ばない冷徹な奴だ。
派遣元に手を回し俺がクビになるように仕向けたサイコパス野郎だ。
「あれはヒムロさん……」
フレイヤが不安げにつぶやいた。
「貴女(アナタ)のような前衛職業の者を我々のカンパニーは求めているのです」
ヒムロは冷静にアイラに話しかけている。
「う、う、わ、わかっ……」
なぜかアイラは苦しそうに「わかった」と返事しようとしているようだ。
「アルス! あんたの出番よ!」
「え? なんですか?」
「あの男、呪術師よ。目をつぶってこの空間のRPを感じなさい」
イズン師匠の言う通り目を閉じてこの部屋中に意識を巡らせた。
ぼんやりとだがアイラの後ろから死神のような影が取り付いているのが見える。
「あの死神は?」
「RPを感じたようね。
そう呪術師は自分が形作ったモノを自由に操るの。
肉眼では見えないわさ。
周囲のRPを無意識に感じられるようになれば意識しなくても見えるようになるけどね。
フレイヤ、ノル、アンタ達も感じてみなさい」
「ニャニャニャニャニャ!見えないニャ!」
「わずかだけど死神のようなモノが見えます」
ノルには何も見えずフレイヤには見えたようだ。
ヒムロの奴。この世界でも卑怯なことをしやがって。
現実世界での借りも返してやる!
「アルス。行きなさい。ただし調子にのってやり過ぎないように!」
イズン師匠に調子に乗ったのがバレてしまったみたいだ。
個人的な恨みでやるのは良くない。
あくまでもアイラを助けるために一発かまそう。
「あのー。ちょっといいですか。
なんだか嫌がってるようだやめたらどうでしょう?」
「なんだね? 君は? 私は冷静に話をしているだけだよ?」
「嘘を言わないでくださいよ。死神みたいなモノが見えてますよ?」
「ほう。私のゴーストが見えますか。それはいけませんね」
死神が大きなカマを俺に振り下ろしてきた。
とりあえず相手は人間じゃないし普通にぶん殴ってみよう。
死神の顔面めがけて拳をついた。
死神は一瞬にして霧散した。
まったく手応えは無い。
「ぐわぁっ!」
目の前で何故かヒムロがぶっとんで泡を吹いて倒れた。
「ちょっと。やりすぎないように言ったわさ。
いくらRPで形作ったモノとは言え術者と意識が繋がってるわさ。
肉体的にはダメージ無いものの、
あんな勢いで攻撃されたら暫く寝込んでるだろうね」
「そ、それを早く言って下さいよ!」
「それはそうだわさね」
「この人も召喚者で元の世界では私も知り合いだったんです。
色々あって今は一緒に行動していないけど見捨てるわけにはいかないので」
アイラはそう言うと回復呪文(ヒール)をかけてヒムロを起こしてあげた。
「フ、フレイヤお嬢さん。アナタが回復呪文を……。あんな仕打ちをしたのに」
「もう過去のことはいいです。みなさんに迷惑ですから今日はゴウリキさん達と帰って下さい」
「は、はい。わかりました……。ありがとうございます……」
ヒムロは、ゴウリキとホソカワに肩をかされてギルドを出ていった。
「イズン様! アルス殿! またもや助けられました!」
アイラが勢いよく話しかけてきた。
「二度にわたる恩。ワタシもこのままでは今日は帰れません! 何か恩返しを!」
そうだ。前衛にちょうどいいんじゃないだろうか?
「師匠。前衛の件ですがアイラに入ってもらうのはどうでしょう?」
「仲間ニャ! 仲間ニャ!」
「あら、心強いわね」
ノルもフレイヤも喜んでいる。
「ワタシをぜひパーティーメンバーに入れて下さい! お役に立ちます!」
アイラも乗り気だ。
「嫌よ」
イズン師匠はボソリと言った。
「な、何かご不満でも! イズン様!」
アイラはあせってイズン師匠に近づいていった。
メロンのようなおっぱいがイズン師匠の顔面を挟みこむ形になってしまった。
「ひぃやぁよ」
おっぱいに顔がうずめられて上手く発音が聞き取れない。
尻派の俺でも一度はやってみたい。
やられたい。
うらやましい。
イズン師匠のペチャパイによる巨乳嫌いのために貴重な戦力を失うわけにはいかなかった。
結局、アイラはパーティーメンバーになりました。
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