序章 回想

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序章 回想

冥王の子供達 ザ・レスト・オブ・ハー 東京都を震撼させた不可解な霊災、闇のゴールデンウィークと呼ばれる事件があった。 かつて警察庁祓魔課の祓魔官だった勘解由小路降魔と真琴の夫婦、またその子供達、更に言うなら異世界の神といった雑多なタレント達が入り乱れ、混迷が混迷を呼び、結局、多くの人間が知ることもなく、闇のゴールデンウィークは斬獲されていった。 この話は、思い出された話であり、彼女の残していった話であり、また、絶世の美しさを持った奥手な少年の恋の話だった。 やはり、多くの人間に知られることなく、冒頭の物語は平和に進んでいく。 本来、この話を世間に公表するはずだった厄介な女新聞記者気取りは、今のところ大人しくしていたらしい。 もう一度言う。これは、少年の物語だった。 勿論、その父親や母親、双子の妹、弟の話でもない。いや、出てはくるけれども。 これは、闇のゴールデンウィークから、7年後、小学二年生だった少年が、高校一年生になった頃のお話。 見目麗しい少年に成長した勘解由小路流紫降(かでのこうじるしふる)は、登校の用意を終え、母親の呼び声を待っていた。 隣のベッドでは、双子の姉の勘解由小路碧(かでのこうじジャスパー)が、だらしない格好で腹を出して寝ていた。 流紫降はすぐに気づいた。碧は、半裸でだらしない格好で寝てはいるが、そのお腹を覆う右手は、確かに新たな生命を守りかばう、母親の右手だった。 苦労するね。影山さんは。 碧ちゃんは自覚してるのかな? 流紫降は、双子の姉の専属執事の行く末を案じ、深く息を吐いた。 「流紫降くん。今日から高校生ね。あら素敵!お父様にそっくりだわ!お着物は?今日日舞の習い事でしょう?まあ碧ちゃん。起きなさい。朝ですよ」 この7年でまるで変わらない母親の姿があった。勘解由小路真琴は、黒いスリップにナイトガウンという煽情的な格好で双子の子供を起こしにきたのだった。 「あああああああ。あと五分」 「起きなきゃ駄目よ。今日は入学式でしょう?ママも一緒に行くんだから。お父様も一緒に。ああ!子供の式典に顔を出す降魔さんカッコ良すぎです!ママは心が遠くに行ってしまいそう」 「それで父さんのところに行っちゃうんだね」 流紫降は、未だに子供を設けようと日々子作りに励んでいる父親と母親が、当然のようにチュッチュイチャイチャしているのをよく知っていた。 何しろ、最初に両親の子作りを目の当たりにして、姉をそっと制したのは流紫降だった。母親にしがみつき、おっぱいに吸いつこうとしたかったが、そもそも父親が独占していたのだった。流紫降の落胆は大きかった。 「うあああああああ!不快な名前聞いて目が覚めた!あれ?トキは?」 「トキさんは老人会の集まりに行ってるよ、碧ちゃん」 「(ジャスパー)呼ぶな!(あお)って言え!いいじゃん流紫降轟さん呼んで。ヘリで学校行こう。校庭のど真ん中に降り立ってやろう」 妹の莉里の予言の成果があった。キラキラしたジャスパーという名前を、姉は嫌っていた。 「轟さんはお父様の大事な運転手でしょう。流紫降くんも簡単に彼等を使役しないで頂戴」 「ジーー碧ちゃんが言わなきゃしないよ」 碧は目敏くその痕跡を発見し、声を荒げた。 この7年で、碧は父親をライバル視しているきらいがあった。 全く自分を棚に上げて、碧は唾を飛ばした。 「あー!ママまたそんな所にキスマーク幾つもつけて!あのエロオヤジ!もう五十代だってえのに!未だに弟妹か!もういいっつっとるのに!あ!そう言えば(ベリル)くんは?!あの子は別よ!莉里(リリ)とは違うんだから!」 この7年で、莉里は中学3年生になり、緑は稲荷山小学校の1年3組に入っていた。 「緑くんも莉里ちゃんも学校だよ。始業式。護田さんはとっくに莉里ちゃんと行ってるよ」 「あの夢魔っ子が?学校?どうせマックでも行ってんでしょう?ママ、言ってやってよ。ああでも緑は別よ。滅多に笑わない天使スマイルに私の心も奪われちゃうんだから。あー緑可愛いよ緑。どうやったらあんな弟が出来るの?」 「それはね?降魔さんがママをフォックスグランドホテルの最上階に連れて行って部屋に入った途端私のおっぱいを優しくムニムニしたら自然に下着が脱げてしまって、ママはその時一匹の可愛いエロママちゃんになって降魔さんの肩にちょっと噛み付いちゃったのよ。そうしたら降魔さんが」 「母さん。お願いだから朝っぱらから生々しい話しないで欲しい。碧ちゃん、行こう」 「へい。朝食要らないわ。胃もたれしそう」 「じゃあ母さん、行ってきます」 途端に真琴は涙ぐみ、ハンカチで目頭を押さえ始めた。 「あんなにちっちゃくて可愛かった双子ちゃんがもう高校生だなんて。入学式で出会うまでよくよく気をつけるのよ。最近は通り魔霊災が起きているから。きっと降魔さんがなんとかしてくれるから。それまでは」 「昨日もホテルで朝までがっついてたんでしょ?」 取り合わずに部屋を出て食堂に向かうと、父親が三田倉さんに新聞を広げてもらっていた。 悪魔使いの称号は一切変わらない父親の姿があった。いつの間にか12人どころか70人の僕を操る恐怖の父親になっていた。流石は冥王ハデスだった。 そう。この勘解由小路降魔という男は、実際は人間だが平然と神になってしまう男だった。 確かに、この父親の器は通常の人類とは違っていた。冥界の最高君臨者にまで上り詰めていた。 事件の最後でハデスは失われたが、実際は今も元気に父親の中で生きているらしかった。 「おう蛇っ子。おはよう」 「昨日もママと朝までやってたんでしょう。このエロオヤジ。ママの柔肌キスマークだらけだったわよ」 「真琴の回復力を舐めるな。どんだけおっぱいに吸い付いても腰振ってる内にみるみる治っていくんだ。つまり今ついていたキスマークはついさっきここでつけた奴だ。そして碧、昨日ので弟が生まれたら名前は正二トリプルエックスだ。カッコいいだろう」 37回か。多いな。流紫降はそんな感想を抱いた。 そう言えば、莉里の予言によるとその内三つ子が出来るらしかった。結構ことあるごとに言っていた。 何気ない会話が本質を正確に突き、未来すら見通すのが莉里だった。 「やりすぎだお前は!あ!三田村さん!今日も面が素敵ね!昨日私甘い紅茶をこぼしちゃう夢見たの。多分三田村さんのこと考えながら寝ちゃったからかしら。うん!クロワッサンに甘いジャムがいいわ!筆談やめて。ああくそカッケー。堪らんあの初老」 「どこまで俺そっくりなんだお前は」 勘解由小路はそう呟いた。 制服に着替え、双子は家を出ようとしていた。 入口前には両親が見送りにきていた。 「入学式には出てやろう。通り魔霊災を始末した後で。俺はこれから真琴のおっぱいの柔らかさを探求する旅に出る」 と言うより現在の父親の職業的肩書きは私立狐魂堂学園高校、つまりこの後流紫降達が通う学校の理事長だった。と言うより、うちの学校の理事長は遅刻する気満々だった。それに飽き足らずサボるつもるらしかった。 「年考えろエロオヤジ。今子供出来たら成人した時七十だろ。後期高齢者だろうが」 「真琴とのラブ旅に年は関係ない。俺のオス蛇ちゃんはいつまでも若々しく真琴のエロ蛇ちゃんのあったかい巣穴を目指して這い回るんだ。困った時のE缶もあるしな」 いたたまれない顔をしたメイド長の鳴神の姿があった。 流紫降を妊娠する時、勘解由小路は内在する霊力の殆どを流紫降に分け与えたと言う話があった。 今思うと随分前の話で、今は全くそんなことはなく、つまり、鳴神はただのメイド長にすぎなかった。 「キリがないみたいだから行ってきます。父さん、母さん」 「ふん。行ってくるわ。入学式という最高のタイミングで私が最高の挨拶をしてやるわ」 「保護者席の最高ポジションはすでに確保してある。伊達に名門私立高に億単位の寄付金払ってないからな。祓魔科か。頑張れ」 「こうやって私達の可愛い子供は巣立っていくんだわ。降魔さん、あなたの可愛いラブ嫁ちゃんは悲しみに打ちひしがれそうです。二人が出かけたら食堂の机に私を横たえてください。私は一匹のエロ蛇ちゃんになって降魔さんにいじめられて」 聞いていられなくなったので二人は歩き出した。 これから、恐怖の双子と呼ばれる二人の一方的な斬獲劇が始まるのだ。 これより本篇。回想の解説は終わり、冥王ハデスの息子の奥手な恋の物語が始まる。
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