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初めての抗癌治療の前に、俺には受けなければならない手術がありました。
カテーテルの埋没手術。
抗癌剤を流し込むにあたり、効率的にガンを攻撃する為に必要なものです。
股関節にある大腿動脈にカテーテルという細い管を通し、骨盤の横辺りにその先を埋め込み、抗癌剤を流入する際にそのカテーテルの土台に針をぶっ刺して流し込むという手法をとるための手術です。
埋め込んでしまえば何度も手術しなくても毎回動脈に抗癌剤を流し込めますので。
針刺す時ビクッてなる鋭い痛みがありますけどね。
その手術をして、傷口が治ったところで初めての抗癌剤を流入しました。
抗癌剤と言われると吐き気が凄いイメージだと思います。
確かに凄い吐き気がですが、抗癌剤を入れてからどれくらいから気持ち悪くなると思いますか?
知らない方が多いと思います。
「全然余裕だわ。気持ち悪くならん。
昼飯余裕で食えるし。」
「人によって差があるって言ってたしルクランは愛称が良かったのかな?」
なんて俺も呑気に母と話をしていたくらいです。
昼前から始めた抗癌剤流入。
効果を感じたのは夕方からでした。
「おぉおおぉ!!」
気持ち悪い。そんな言葉では表せません。
地獄です。
体から全ての物を出そうと体が反応してる様な。
女性の方でお子さんのいらっしゃる方はツワリを経験された方が多いかと思います。
それを数倍にしたものと同じ様なものらしいです。
昼に食べた物はもちろん、それが胃の中から無くなっても更に吐きます。
内容物を出してもさらに吐き、胃液を出し続けると黄緑色の胃液が出てくると知ったのはこの時です。
抗癌剤は超劇薬です。
毒と言っても良いです。
それを身体から出そうとするんです。
あまりの強さに抗癌剤を体の中にとどめる事は出来ず、常に点滴によって水分を流し続けます。
30分に1回は夜中でも起きてトイレに行くと信じられない量の尿が出ます。
それだけ水分を流し込み続けているんです。
抗癌剤の気持ち悪さを良くする為に薬は使わないのか?
使います。ステロイド。
聞いた事はあるかと思います。
スポーツ選手のドーピングとか。
そのステロイドはこの吐き気を抑える効果を持っています。なので点滴と一緒に流し込まれます。
それでこの気持ち悪さなんですよ。
ステロイドは副作用として、一言で言うと太るという効果を持っています。
60キロだった体重が暫くして100キロになった私を考えると分かりやすいですね。
ガン患者というとガリガリになっているイメージを持つ方も多いと思いますが、逆です。
太ります。かなり。
ガリガリになっている方は、本当に死ぬ間際の方々です。
抗癌治療を受けられる方は皆太ります。
体重より体調を気にしなければならない状況なので患者内では体重について触れないという事が暗黙の了解となっていますねw
特に女性は辛いですよね。
竹先生の話で、昔太る事が嫌でステロイドを使わずに抗癌剤を流し込んだ女性の方がいたそうです。
どんな吐き気にも耐えるからと無理矢理説得させられたそうです。
その方は気持ち悪さを訴えだしてから10分も待たずステロイドを使ったそうです。
吐き気で死ぬと思ったらしいです。
それくらいに抗癌剤というのは強い物です。
近年では乳癌についての情報が多くなり知っているよ。という方もいるかもしれません。
実際に通院しながら飲み薬の抗癌剤を使った事がある。使っている。聞いた事がある方もいるかもしれません。
通院しながらでも大丈夫な抗癌剤というものは確かにあります。
しかしそれはかなり薄められた抗癌剤。といえば分かりやすいでしょうか。
弱い抗癌剤なんです。
通院しながらでは無理、本当に歩くことすらままならなくなる吐き気が襲ってくる抗癌剤と比べてしまうと…
実際に私は歩けませんでした。物理的にはという事でなく動けない。
気持ち悪さで。
寝返りさえ躊躇います。
ぼーっとして意識は霧が掛かった様に曖昧。
ダルさが異常で動けない。
食事の時間になると運ばれてくる食事の匂い。
その食事の入っているプラスチックの容器の匂いで吐きます。
食事など出来る訳ありません。
嬉しい事なのか、空腹感はありませんでした。
胃の中に何かがあるという事の方が辛いです。
抗癌剤は三日間に渡って流し続けます。
喋る事も出来ず、母が背中を摩り、吐き続ける日が四日間から五日間続くと、やっと吐き気が収まってきます。
そんな状況なので、用を足す事が出来ません。
私は車椅子生活でしたので。
尿瓶に尿を出すのを恥ずかしがってました。
恥ずかしいですよ。そりゃ。看護師さんは美人な女性ばかりでしたし。
赤面です。
でもそんな事吹っ飛びます。全部ね。
さすがに大はトイレに行きましたよ。恥ずかしすぎるので。
夜中に30分に1回車椅子に乗り換えてトイレに行くのは厳しいんです。抗癌剤使ってる時は。
なんとか体調が戻ってくると少しずつ意識がハッキリしてきます。
すると色々と気付きます。
「おわっ?!なんだこりゃ?!」
初めにビックリしたのは自分の尿の色です。
抗癌剤というのはわりと派手な色をしています。
ピンクやオレンジ。
するとそれが尿に混ざって出てくるので、尿がピンクやオレンジ色になるんです。
綺麗ーー…なんて思いませんよ。
気持ち悪っ!!ってな感じです。
あまりの事に真っ先に。
「お母さん!俺の小便ピンク色だった!」
「やめてよw」
って感じでしたw
高校生というか俺の性格ですねw
完全に抗癌剤が体から抜けるまでには体調が戻ってから大体一週間から二週間。
大事を取って二週間は点滴が腕から抜けません。
辛いのは寝る時。
邪魔なんです。点滴。
腕に刺さりっぱなしなのでその腕を下には出来ませんし、常に点滴台と共にいますので段差邪魔。
基本的にバリアフリーなので段差はそこまで気になりませんが。
眠りについてからその腕が下になっていたり腕や肩が圧迫されていると血流が止まり落ちてきた水分が腕にたまり、起きた時反対の腕の2倍くらいに膨れ上がっています。
最初ビックリして看護師さんに言いました。
「うぉ!俺今日すげぇむくんでね?!」
「バカw
すぐ笑わせるんだからw」
って笑ってくれましたw
優しい方達ばかりでした。
その頃になると髪が抜けてきます。
バサッと枕に髪があるのは女性でなくてもショックですよ。
女性はもっとショックだと思いますが…
豆知識…では無いですが、腕を圧迫した状態で寝て血流と点滴が止まっていたのを起きて伸ばして流すと、血管の中を心臓の方に流れていく水分を感じることが出来るんです。
冷たい物がスーッて流れていくのを感じることが出来ます。
他にも、その時は点滴も落ちていません。
完全に止まると点滴のチューブの方に血が逆流して、赤い点滴になるんです。
あんまりその状態で留まると血が凝固してしまって腕を戻しても流れなくなります。
するとチューブを看護師さんが折り曲げてグッと摘んで水圧を掛けて詰まりを取ってくれるんです。
すると流れ始めるんですが、その作業のことを、確かミルキーポンプって言うらしいですよ。あ、違ってたらごめんなさい。
そんなこんなでなんとか点滴が外れた時は開放感が半端ない。
「いゃっほーーい!!」
って叫びます。実際に。
しかし、これで終わりかと言うと違います。
抗癌剤は非常に強力で、血液中の大切な成分まで壊してしまいます。
血小板、白血球が特に厄介です。
血小板というのは血を固める為の成分です。
簡単に言うとカサブタを作る成分ですね。
それがかなり健常な人よりも下がってしまいます。
すると、たとえば歯磨きをして歯茎に傷をつけて血が出ると暫くは止まらずずっと血の味が取れません。
ぺってすると赤い唾です。
なので怪我はもちろん、髪を剃ることも許されません。
危ないからね。
部分的に抜け落ちた髪と残った髪があってみすぼらしいのでさっさと剃りたくて聞いたら怒られましたw
次は白血球。
これは体の中に入ってきた悪い菌を撃退してくれる成分です。
これが下がると、例えば普段なら余裕な病気にも掛かります。
しかも掛かっても白血球が少ないので対抗できません。
なので一切外に出る事は許されません。
酷い場合だと無菌室に閉じ込められてしまいます。
見舞いの方も殺菌消毒しなければ入れません。
この数値が上がるまでの期間は人によって違います。
二週間の人もいれば1ヶ月掛かってもまだ戻らない人もいます。
有難いことに私はこの数値があまり下がらない上に直ぐに戻る体質でした。
点滴が抜けてから3日くらいで戻る事もありました。
それでもしばらくは様子見のため病院からは出られません。
大体二週間くらいすると竹先生が。
「うん。もぉいいかな。一時退院。」
と言われます。
抗癌剤は強いので連続して体に入れると体がぶっ壊れてしまいます。
なので1ヶ月は自宅で安静にする事が求められます。
なので一時退院。
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