季節外れのかすみ草

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   一、人生を振り返り       二〇六二年、私は渡辺圭介、今年で九〇歳を迎えた。  妻も先立ち、残された家族は誰もいない。  壁に飾られた、ドライフラワーのかすみ草だけが、私の話し相手。  妻の話では、もう七五年もずっとここにある不思議な、かすみ草だ。  今、この世の中、欲しい物はすべて手に入り病院だって、医療機器を装備した医療機器車が出来、手術さえ車の中で行われる時代になった。  入院せず、自宅に看護師がやっては来るが、昔みたいな病院の大部屋で、わいわい過ごした、あの時を思い出す…。  便利になったが、やっぱり一人は寂しいかぎり…。老人ホームに入ればいいじゃないかって?  現在は、老人ホームは廃止になったんだ。  介護士の老人に対する虐待が増え、又、老人同士の喧嘩…。  政府は老人ホームを廃止して、ネットで介護士が相手をしてくれて、介護が必要な老人は、二四時間、付ききりで介護士ロボットが家に来て、世話をしてくれるんだ。  ネット社会で画像を見て会話する世界。  実際に人と人が集まる場所が激減したよ。  人と会って話す機会が減り人はストレスを知らないうちに感じて住みにくく寂しい世の中になってしまった。  それも、これも全て、私のせいだ…。  私の話し相手は、ドライフラワーのかすみ草だけ。  華やかな主役を立てる名脇役のかすみ草に今は亡き妻が毎朝、毎晩、かすみ草に語り掛けていた。  かすみ草の花言葉は七つ 「永遠の愛」「幸福」 「純潔」 「感謝」 「清らかな心」 「無邪気」 「親切」    よく妻の若菜は幼少期から私と出会うまでの話を沢山してくれた。  若菜の話は楽しかったぁ…。             
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