季節外れのかすみ草

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           二、不思議なかすみ草    昭和六二年、私の未来の妻になる橋本若菜(一〇歳)が福岡県門司、大里のおじいちゃんの実家で生活していた。  父、敏夫、母、和美、妹の恵、そして、おじいちゃんの拓三、おばあちゃんのキクの六人の大家族だ。  敏夫は、ごくごく普通の会社員で趣味は、写真を撮る事だ。  和美もパートの仕事をして、若菜と恵は、おじいちゃん、おばあちゃんが面倒をみてくれていた。  若菜は小さい頃から、おてんばでいつも男の子を泣かしていたそうだ。  おじいちゃん子だった若菜は、おじいちゃんから花札や将棋を教わり、時には、おじいちゃんと相撲やキャッチボールをしたりした。 おばあちゃんから折り紙やあやとりを教わったが、どちらかと言えば男の子の遊びが大好きだった。 もちろん、おばあちゃんも大好きだ。    おばあちゃんの七〇歳の誕生日、若菜は、花をプレゼントしようと自分のお小遣いを寄せ集めて花屋に行った。  昔から有る、古びた商店街の岡本花屋さんだ。  六〇歳過ぎの店主が店の奥から、ふらふらと出て来て来た。 「お姉ちゃんプレゼントかい?」 「うん。おばあちゃんに…」 「どんな花がいい「若菜、このかすみ草、全然、枯れないのよ…。  匂いを嗅ぐと、余計に花が元気になる気がするの…不思議でしょ。」 「ふぅ…ん」    んだい? この季節、薔薇とか綺麗だよ。」 「おばあちゃん、薔薇とか似合わない!  派手なの嫌いだし。」 「ちょっと待って…」  店主は奥のガラスケースを開けた。 「季節外れだけど、元気な花があるよ。  きっと、おばあちゃんも喜んでくれるよ。どうだい…」  店主は若菜に差し出したのは、真っ白な、かすみ草だった。  おばあちゃんみたいに清楚で上品な感じのかすみ草は若菜も一目で気に入った。  「他の花も入れるかい?」   「いらない!かすみ草だけで充分!  おじさん、ありがとう!」    その、かすみ草との出会いが、これから若菜の人生を変える事になるとは誰も想像もつかなかった。   「おばあちゃん、お誕生日、おめでとう。」 「あらっ…若菜が私に花を買ってくれるなんて…  男勝りな若菜が花なんて、やっぱり、女の子だね!ありがとうね…。若菜。」  おばあちゃんは大事にかすみ草を花瓶に入れた。  不思議な事にかすみ草は枯れず三カ月が経過した。 「若菜、このかすみ草、全然、枯れないのよ…。  匂いを嗅ぐと、余計に花が元気になる気がするの…不思議でしょ。」 「ふぅ…ん」    若菜の家族はマイホームを購入し、折尾に引っ越す事になり大好きだった、おじいちゃんとおばあちゃんと離れ離れになった。    引っ越しの荷物を乗せた車をおじいちゃんは見送り、車が発車すると、おじいちゃんは追いかけて車が見えなくなるまでおじいちゃんは追いかけ続けたそうだ。    テレビのドラマでよくあるベタな話だが、若菜は当時を思い出し泣きながらその話をよくしてくれたなぁ。    若菜は折尾に転校後、中学に上がり、やんちゃな子からヤンキーに進化した。  それは当時の写真を見たらビックリした。  長いスカートにペッチャンコのカバン、時には竹刀を持ってる写真まである。  当時を振り返り、若菜の格好はヤンキーだが悪い事は何一つしなかったそうだ。  ただ、クラスのいじめっ子を放課後呼び出し、木に吊るし上げたり、差別的で自分の考えを押し付ける先生には、タイマンを張り体育館の裏で先生をノックアウトさせた。  充分、悪い事をしているが…  若菜はどんな時でも理不尽な事に耐えれなかった。  言わば正義の味方みたいだが、何故、そんなヤンキーの格好をしてるのかは疑問だが…  周りも若菜を頼り正義の女ヤンキー軍団が結集した。  学校の成績?  もちろん、勉強は苦手?ではなく、ただ嫌い?勉強するのが面倒なだけだ。  母に、通信簿を見せたらアヒルの徒競走って言われた。【お、一.二 お一.二】だって…。  しかし、母も父も若菜に無理強いする事なく、個性を重視してくれたそうだ。  その結果が、お馬鹿なヤンキー娘になってしまった…。    妹の恵は姉を見て育ち、このままではいかんと思い、勉学に励み成績はトップクラス、しかし、姉のヤンキー伝説が広まり小学校では恵も恐れられてる存在になっていた。  恵は、どちらかと言えば、ぼーとしたタイプの女の子。   「姉ちゃんのせいで友達が近づいてくれないんだからね!」 「解った!私が学校に行って恵の友達になれ!て言ってあげる!任しとけ。」 「頼むから、それだけはやめて…!お姉ちゃん…」    若菜はヤンキー軍団を引き連れ、おじいちゃんの住む門司までチャリンコをぶっ飛ばし、よく、逢いに行ったそうだ。  さぞかし、おじいちゃんもおばあちゃんもビックリしただろう。  しかし、おじいちゃんはヤンキー軍団と一緒に釣りに行ったり、竹刀でチャンバラを教えたりした。  竹刀を持った写真は、その頃で、おじいちゃんも一緒に写っていた。  お父様の撮った写真には、若菜のヤンキー時代の写真はほとんど無く、恥ずかしく残したくなかったみたいで、竹刀を持った写真やヤンキー時代の写真は、きっと、友達が撮った写真だろう。  他にも、皆んなで花札したり、おばあちゃんは、皆んなと綾取りしたり分け隔てなく相手をしてくれたそうだ。 「若菜のおじいちゃん、おばあちゃん、優しいね!」  ヤンキー軍団も、おじいちゃん、おばあちゃんの優しさに触れ、今まで経験した事の無い体験を沢山、教わって皆んな若菜のおじいちゃんとおばあちゃんが大好きだった。  二人も若菜達が逢いに来てくれるのを心待ちにしていた。  ある時、若菜は、おばあちゃんのテーブルの上にある、かすみ草を見て、  「このかすみ草、もしかして私がプレゼントしたかすみ草なの?」 「そうよ。あの時、若菜が買ってくれたかすみ草よ。でも、いまだに枯れないのよ…もう、二年も経つのに…不思議ね。」    若菜は、かすみ草の匂いを嗅いだ。 「何、枯れないの…?」    その時、自分が着てる赤い龍の刺繍のスタジャンとGパンが恥ずかしく思え、トイレに慌てて隠れた。   「おばあちゃん、私の着れる服、有りますか?」 「どうしたの?急に敬語で…まぁ、気持ち悪い。」    これが若菜とかすみ草の長い付き合いの始まりだった…。  
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