季節外れのかすみ草

18/70
33人が本棚に入れています
本棚に追加
/70ページ
        一八、舞鶴翼と茜    若菜は、全てを終え、音楽学校に戻った。  そこには、一緒に卒業した仲間達。  久しぶりに会う連中。 「若菜。元気だった?」  皆んな、声を掛けてはくれるものも、若菜は上辺だけの付き合いに感じた。  周りの会話は、初舞台の話ばかり…  そして雅美がやって来た。 「若菜、久しぶり!  元気だった?  みんな、初舞台で必死なのよ。  そして、夜は夜間学校でしょ。  今は、初舞台で皆んな、まとまっているのよ。  皆んな、若菜にどうやって接したらいいか分からないと思う。」   「久しぶりって言うのに、何か皆んな、冷たいよ…」  「でも、皆んなプロになろうとしてるのよ…  だから、若菜と茜の存在が怖いだけと思うわ。」  その日、若菜は雅美以外、誰とも話さなかった。  若菜は、華咲舞のいるマンションに戻ると部屋の奥のトレーニングジムで体を鍛えている華咲舞の姿があった。  自転車を漕ぎ、台本読みながら発声練習をしている。  時には、自分にキレて髪の毛を、ぐしゃぐしゃにしたり、発狂して叫んだりしている  そこには先程、見た華咲舞ではなかった。  若菜はドアの隙間から何かを感じ取った。  これがプロなんだ。  オン、オフの切り替えでこんなにも、輝いて見える。  それにどんな偉大な人でも、日々の練習をしっかり積み重ねて舞台に立ってるんだと…  しかし、若菜は、それどころではない。  お風呂の用意や洗濯、まだまだする事が山積みである。  全て、終わったのが夜中の0時過ぎ、寝具を持って来てないのでソファーで寝た。  汚すぎる!華咲舞が寝転んでいたのでソファーを掃除するの忘れていた。  お菓子の食べカスでいっぱいだ…  若菜も疲れからか、汚いソファーで、朝まで爆睡した。 「橋本!いつまで寝てる!  もう、六時よ!あなたは、四時には、起きてスケジュールの確認や朝食の準備、十一時が公演時間だから最低三時間前に楽屋入りしないと間に合わないの!  朝食は、いいから自分の化粧しなさい。  服は、私のを貸すわ。」 「すみません…」  華咲舞は、すでに全てを終わらせていた。  そして、若菜にコーヒーを入れてくれていた。  すでに、華咲舞のスイッチはオンに入っている。  八時にタクシーで福岡歌劇座に到着した。  そこには、早くも多くのファンの姿。 「華咲さん、開演まで三時間以上あるのに、もう、開演を待って並んでるんですか?」 「そうよ!ファンは私達の公演を心待ちにしてるの。  だから、絶対、失敗は許されないのよ。  何年、経っても緊張するわ。  逃げ出したい事もしばしば…  あらっ…何であなたに、そんな事を話したんだろう…  さぁ、行くわよ!荷物、忘れないでね!」  多くのスタッフ達が華咲舞の到着を待っていた      「おはようございます!」  さすが、大スターだ。  到着するなり衣装室に通され、衣装係やメイク係が行ってくれる。  若菜は、不思議に思いメイクをしている、華咲舞にたずねた。 「ここでメイクしてくれるのに、何故、家でも化粧するんですか?」 「当たり前でしょ。  家から出た時から私達は、人に見られてるって事よ!  あなたも日頃から気をつけなさい!  服装も、ちょっとは、お金をかけなさいね!」  若菜は、高いプロ意識に戸惑いを感じつつも華咲舞という女性に引き込まれて行った。    そして、メイク室に舞鶴翼に連れて来られるように茜が後ろから付いて来ていた。  若菜は、小さく手を振り茜も小さく、うなずいた。  どうも、茜に話しかける雰囲気では、なかった。  明らかに茜は怯えてる。 「翼、おたくの付き人はどうだ?」 「初日から寝坊。朝から、私がコーヒーを入れてあげたわ。  でも、初日にしたら、まずまず頑張ってるんじゃない。」 「舞の付き人は?」 「駄目、駄目! ずっと、怯えてる。  昨日、あの子に試したのよ!  玄関に置いてる私のブーツ、ちょっと斜めにしたのよね。  あの子、全然、気づかないで自分の靴だけ真っ直ぐにしたのよ!  信じられる?」   「私もあの子も、確か斜めだったわよ。あの子だったら即刻クビね!  翼は、几帳面過ぎるのよ!」   「びったれから言われたくないわ!」  【福岡弁で、びったれとは?=だらしがない】  舞鶴翼は、極度の綺麗好きの几帳面人間だった。  茜も、どちらかと言えば几帳面な方だが、舞鶴翼は度を超えている。  側から見れば、付き人いびりしか見えない。  ただ単に、いびっているだけかも知れない…。  だから舞鶴翼の付き人は、誰も一週間も持たないのだ。 「公演リハーサル入ります。」  華咲舞と舞鶴翼は衣装室を後にした。 「島崎!スケジュールの確認と帰りのタクシー予約しなさいよ。タバコ臭いのとホコリがあったら、私、乗らないからね!」 「は、はい。」   「なんなのよ。あいつ!茜、悔しくないの?」 「悔しいよ。  他の同期を見ていたら羨ましいよ。  何で、私だけ?て思うの。  あっ、若菜もだったわ…。ごめん。  若菜は、今どうなの?」 「華咲は舞鶴と真反対。  部屋は汚いし、家では気を抜きっぱなし、でも、突然、オフからオンになるのよ。  私達が、花の匂いを嗅ぐようにね。」   「舞鶴も、そうなのよ。  細かい事、言うわりには、発声練習したり、ジムに行ってる時は、服が乱れていたり、汗を飛ばしたり、床を拭こうとしたら怒るのよ。」  「……。」  そして、スター、オリオンの公演が開演した。  若菜や茜が経験した、歌劇音楽学校の文化祭の規模とは、かけ離れた世界だった。  六〇人のダンサーによる、歌とダンスのショーが始まった。  一列なり、一糸乱れぬ足上げラインダンスだ。  以前、おばあちゃんに連れられて、初めて観た、あの感動が今、また蘇った。  そして、憧れだった人が近くにいる。  自分が思い描いた人とは多少違うが…  そして、男役、舞鶴翼と娘役の華咲舞が華麗な衣装でステージに出てきた。  二人によるデュエットダンスに観客のボルテージは最高潮になった。  若菜と茜も、鋭い視線で二人を観ていた。    二部は、芝居だ。  【風と共に去りぬ】の上演が行われ、主役の二人は場内を熱狂させた。  舞鶴翼は、男らしい情熱とパワーを前面に出し、引き込まれる演技を、華咲舞は女性らしい清楚な動きだが体から溢れる魅力的な演技を披露した。  公演は観客を魅了し、幕を閉じた。   「お疲れ様です!」  「あー疲れた!帰りにポテチとコーラ買ってきてね!」と一万円を渡された。    どうにか、付き人生活にもなれ、華咲舞の性格がつかめてきた。  大雑把で仕事のオフの日は、ただの怠け者。  気前もよく、スター、オリオンの仲間達を飲みに連れて行く。  もちろん、支払いは華咲舞、持ちだ。  飲みに行く時は、若菜は外で何時間も待たされる。  しかし、華咲舞は、自分の着ない服やアクセサリーを若菜に好きに使わせた。  おかげで、福岡歌劇団の少ない給料でも、全く使わず、お金が増える一方だった。  華咲舞は、お金の価値が分からないのか、ただの馬鹿なのか分からないが、オンになった時の華咲舞は、若菜の手の届かない遠い存在だった。    そして、舞鶴翼と言うと、超几帳面で、かなりのケチ…。  ほとんどタクシーを使わず交通機関を使って福岡歌劇座に来ている。  サングラスにマスク、いかにも怪しい。  飲み会は、誘われたら行くが決して自分の財布は出さない。  おそらく、おばあちゃんの大ファン舞鶴翼が、こんな性格だと分かれば、かなりのショックを受けるだろう…。  取り敢えず、黙っておこう…。  そして、若菜と茜は、飲み会が終わるまで二人で待っていた。  それが、二人が会える唯一の近況報告の場所であった。 「茜、あんた!大丈夫?あんな、ケチ野郎に付いてて!」 「この前、電車賃を立て替えて、まだ返して貰ってないのよ。  几帳面なのに、お金を貸した事だけ忘れるの!」 「なんぼ、貸したの?」 「二〇〇円。」 「……あんたも、セコイね…。」 「そうかなぁ…。  そういえば最近、若菜って凄く、おしゃれ!」 「でしょ!全部、華咲の御古。」 「でも、凄く可愛い!いいなぁ〜。」 「私なんて交通費は、出さないといけないし、給料じゃ追い付けないよ!」 「でも、若菜と華咲さん、何かよく似てるような気がする。  びったれな所とか。」 「うるさい!あんた達もよく似てるよ!  セコさとかね!」 「わははっ…。」  
/70ページ

最初のコメントを投稿しよう!