交番にて

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交番にて

 その男性が交番にやってきたのは、定年間近の私の体には寒さが少し厳しい、ある夜のことであった。 「あのぉ」  報告書を書いていた私は、その弱々しい声に少しビックリし、顔を上げた。  私と目が合い、彼は「どうも」と口を動かし、挙動不審げに会釈をしてきた。  長年、警官をしている癖で、ふと彼の靴に目が行ってしまう。  もう長いこと手入れがされていない様子で、まだらに色がハゲかけている安っぽい革靴だ。  そこから視線を上げていくと、サイズがあってない上に、くたびれたスーツを着ており、余計に彼の弱々しい雰囲気が引き立っていた。  こんな夜中にスーツ……肌は私より一回りくらい下のようだが、例えるなら子泣き爺のような、疲れた顔をしている。 「どうかされましたか?」 「何かあるな」とは、察知していたが、何も気付いていないフリをした。 「……ちょっと、お話を聞いていただきたくて」 「はぁ」  彼に隣の机の椅子に座ってもらい、話を聞いた。
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