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「何を笑ってる。おかしなやつだな」
酒井さんはそう言うとストローに口を付けてアイスコーヒーを飲む。喉が渇いていたようで、グラスの中がすぐに空になった。
「もう一杯飲みます?」
「あ、ああ、いや、早く営業に行こう」
俺は少し残念な気がしたが仕事中である。レジに行って会計を済ませ車に乗り込んだ。
営業に来た場所はこの辺りでは有名なサブコンだった。俺は訪れたのは数回目だ。いつも門前払いで断られる嫌な会社である。だが今日は丁寧に会議室に通された。我が社のおっさん上司よりもさらに歳がいってそうに見えるおっさん。部長と名乗った人が目の前の席に腰かける。
「なかなかいい保温材じゃないか」
そう言って新しいパンフレットに興味を示してくれた。いや、視線は酒井さんの胸元に釘付けだった。だからか何故か話はトントン拍子に上手く進んで、仕事を一つ獲得出来た。
「有難う御座います」
酒井さんは深々とお辞儀をする。俺も真似をして頭を下げた。
帰りの車の中、酒井さんは上機嫌でニコニコと流れる外の景色を眺めていた。
「仕事が取れて良かったな、浅見君」
「はい、係長」
「どうだい、お祝いに一杯」
えっ、飲みの誘い?いいの、いいのかな。俺は「はい」と大きな声で返事をした。なんだかいい事続きだ。ルンルン気分で車を走らせる。
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