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また満月の夜なら…
自分には、そんな場所があるだろうか?
帰りたい場所…戻りたい時間…涙が溢れるほどの…
きっと今がそうだと…その時の俺は気付きもせず、握り返せなかった手が離れる…
白くて柔らかい手が離れていく…
冷たい海風が俺たちに吹く。
「今は、もう疲れてないの…?」そう言いそうだった…けど、聞けなかった…手を離した彼女の横顔は、切なく…ユラユラ揺れる海面の月を見ていたから。
きっと彼女はまだ何かに疲れてるはず…だから、今日も彼女はここへ来たんだ…
彼女に何故だかまた会いたいと思って来ていた俺とは違う…
俺は海を眺めた彼女が、また泣いてしまわないか…彼女に何があったのか…知りたかった。だけど、こんな俺に彼女の気持ちが分かるだろうか?適当に生きて、何にも興味も執着もなく生きてきた…こんな俺なんかが聞いたところで、まともな言葉を返せるだろうか?きっと聞くだけ聞いて…また頷くぐらいしか出来ない気がした。
「今日も月が綺麗ですよ…」海面の月を見る彼女に声をかけると…彼女は顔を上げ、夜空高くに大きく輝く満月を見てから笑顔で俺の方を見た。
「本当ですね」笑顔のはずの彼女の目は、少し潤んでいた。悲しそうな笑顔に、俺は胸が締め付けられる…こんな気持ち、初めてだった。
歳も住んでる場所も知らない彼女に、俺は引き込まれていく…彼女が満月の海に引き込まれそうなように…
何か飲み物でも?なんて気の効いた言葉も出ない…彼女の飲み物の好みも知らない…聞けばいいだけなのに、聞けないことだらけで…ただ今日も雑談して笑って、それだけで心地よい。
そんなに自分から話す方ではないのに、気付いたら俺ばっか話している…
「なんか俺ばっかが、どーでもいいような話ばっかしちゃって…つまんなかったら、ごめんなさい。」
「つまらなくないよ?とっても楽しい♪こんなに誰かの話を聞くのも久しぶりだし、謝らないで…また聞かせて?」と微笑む彼女。
あっ…また日の出が近付いているから、そろそろ帰ってしまうんだろうか…と思いながら、俺も笑って頷いた。
また立ち去ろうとする彼女の背中に俺は気付いたら、声をかけていた。
「カグヤさん、今度いつ会える?!」
驚いた顔して彼女は振り返る。
無意識に出た言葉と思ったより大きな声に、自分自身が1番驚き、恥ずかしかった。
「また満月の夜なら」
それだけ答えると笑顔で俺に手を振り、彼女は去っていった…
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