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待ち人…
「…」俺はため息をついた。
いつも彼女が眺めてる場所に人影はなく、誰もいない海…雲の切れ間からぼんやりと満月の光が見える。
「やっぱ、そうだよな…何やってんだ…俺は」あんなにワクワクしていた自分が恥ずかしくなり、さっき買ったビールをあけ、これを飲みきったら帰ろう…そう思った。
海面に落ちる、いくつもの雨…
いつもは静かに波打ち、輝く満月を綺麗にうつしているのに、今日は雨が弾き、波の音すら聞こえず…彼女が言っていた月の階段もない。
「こんなビール苦かったかな…俺は何がしたいんだ…何にしても」今まで、これと言って取り柄もなく、目立つタイプでもなく、友達と何かをしてもその場のノリだけで、何かにハマって続ける事もなく、仕事も何となくこなし、何となく時間が過ぎ…恋愛なんて、言えるほどまともにしてきたようにも思えず、告白されて何となくオッケーするものの…この俺の執着心の無さからか、別れを切り出されたり浮気されるかで…別にまぁいいかと言われるままに別れるか、自然消滅だった。
「私の事、本当に好きなの?」
「私の事、一度でも好きだった?」
いつも聞かれる…正直、嫌いではないけど…
きっと相手が求めてる好きには達してはいないんだろうというのは、自分でも気付いていた。
いつか俺でも分かるのかな…と思ったり、付き合ってるうちに好きになるのかな…とか思うのだけど、今までなれた試しがない。
趣味や仕事や愛する人…何でも良いから、これと言えるような周囲の人が羨ましいと思うし、見たり聞いたりしていると必死に生きてるって伝わってきて、羨ましかった。
「ほんの少しだけだけど、俺でも分かりそうな気がしてたんだけどな…気のせいか」俺はビールを飲み干し、空き缶をゴミ箱に捨てに行く。
「え!?」ゴミ箱の近くの小さなひさしの下に、しゃがみこんでる人影が…
「カグヤさん??!ここにいたんですか?いつから…」と嬉しくなって声をかけた俺は、顔を上げた彼女の表情に胸が締め付けられた…
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