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秋の柔らかな風に葉が舞う窓際の、時折ギシッと床を鳴らす古いロッキングチェアに座って、ゆらりゆらりと揺れながら静かな時間が過ぎていきます。
壁掛けの振り子時計が重い音を3度響かせた頃、縫い針を針山に戻し、ふぅと一息吐いて眼鏡をサイドテーブルに置きました。
「よし、出来たわ。うん。貴方、とっても素敵よ。これからまた沢山の時間を過ごせるわね」
濃いグリーンのニットの胸元に出来てしまった穴を塞ぎ、紅葉の刺繍を施しました。
優しく手洗いして平干しすれば、見違えるほど生き生きとして見えます。
「喜んで貰えると良いわねぇ。ね、タロウ」
茶色と白色が混ざったような毛の雑種の愛犬。
真ん丸の瞳で見上げるタロウの濡れた鼻をツンツンと触ると「ぶしゅん」とくしゃみをして、またこちらを見上げている姿に、思わず笑ってしまいました。
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