繕い屋 フィレール

2/5
104人が本棚に入れています
本棚に追加
/187ページ
秋の柔らかな風に葉が舞う窓際の、時折ギシッと床を鳴らす古いロッキングチェアに座って、ゆらりゆらりと揺れながら静かな時間が過ぎていきます。 壁掛けの振り子時計が重い音を3度響かせた頃、縫い針を針山に戻し、ふぅと一息吐いて眼鏡をサイドテーブルに置きました。 「よし、出来たわ。うん。貴方、とっても素敵よ。これからまた沢山の時間を過ごせるわね」 濃いグリーンのニットの胸元に出来てしまった穴を塞ぎ、紅葉の刺繍を施しました。 優しく手洗いして平干しすれば、見違えるほど生き生きとして見えます。 「喜んで貰えると良いわねぇ。ね、タロウ」 茶色と白色が混ざったような毛の雑種の愛犬。 真ん丸の瞳で見上げるタロウの濡れた鼻をツンツンと触ると「ぶしゅん」とくしゃみをして、またこちらを見上げている姿に、思わず笑ってしまいました。
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!