その3

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その3

魔王を倒すと決めて体を鍛えて5年が経った。 だが…俺は今更に絶望して屍のように死んだ魚の目をして日々を過ごしていた。 なぜなら…ここはニッポンっと言う国で戦争と無縁な平和な国! そしてこの世界には魔法の概念がない…いや…存在しない。 マナも精霊も魔物も居ない。 つまり…魔王も居ないって事だ。 そう…俺は今まで勘違いして自分の父に復讐をしようと燃えていたバカだった。 父の名は九鬼真央斗…名前はすんげー魔王らしい名前だが…ある中堅会社の社長だ。 母は九鬼ユリカ…レシアとそっくりで優しくて可憐な母…フリーの画家だ。 二人とも普通の人間だった。 死にたい…。 「待って!練ちゃん…もう昼寝の時間だよ」 「あ?七瀬か…」 この幼女…となりの七瀬家の末っ子で同い年で同じ保育園に預けられている。 それに何故か俺に付き纏う!うっとしい! 「はいはい…今は眠くない」 「でも…先生が…」 「それに今俺は自分の突き進む道を失ってこれからの人生をどう向き合って生きて行けばいいかっは!」 「子供が何言ってるの?全く…早く来い!セナちゃんも早く昼寝しようね」 「痛たたた……おいっ!離せ!」 保育士が俺を荷物のように持ち上げて昼寝室に連れて行った。 「このガキ…力つよっ!暴れるな!」 この保育士…34歳の賞味期限完全オーバーして今…最後の力を振り絞って最近付き合った彼氏に砕ける覚悟でファイナルアタックの準備をしている。 かなりヒステリックであるが…子供には気配りもいいし信頼されている。 俺を除いてな…。 昼寝してる幼児達を見ると…やはり平和が一番だと思う。 「隆さん…今日の夜時間空いてるなら一緒に食事に行きませんか?えっ?……残業で遅くなる…夜中でも構いませんよ!おほほ」 あちらさんは婚活と言う緊迫で激しい戦場に立って孤独に戦っていらっしゃるが… 「ねぇ…練ちゃん」 「あ?なんた?」 「……なんでもない」 歯切れが悪い奴……そろそろ母が来る時間になって他の保護者もぞろぞろ来た。 「練ちゃん!ママだよ!」 「………おかぁちゃん♪」 母の前には出来るだけ子供のように振舞っている…自分の子の中身が30近いおっさ…いやお兄さんだと悲しい過ぎるだろ…。 「練ちゃんは今日何して過ごしました?」 「砂遊び!あと…絵の練習!」 「まあー♪」 母は俺が絵に興味を持つと凄く機嫌が良くなる…本当は全く興味ないがな…。 「おうちに帰ろう♪」 「……かあちゃんちょっと待って」 「どうしたの?」 俺は一人だけ残っている七瀬の前に行った。 「おい…ガキ…家は隣だ…その…一緒に帰るか?」 「……うん!」 七瀬の家は両親が共働きで会社も遠いせいか迎に来るのが遅くていつも一人で残っていた。 それが前から後味が悪かったから一緒に連れて行く事にした。 「…うちの息子は…天使だわ!ママは嬉しいわ!」 息子バカの母は七瀬の母に電話して一緒に連れ帰る事を伝えた。 「練ちゃん…ありがとう」 「ガキはガキらしく甘えていいんだぞ…」 「私…練ちゃんと同い年だよ」 ……そうだったな。 それからこの幼女は俺にもっと付き纏うようになった。 そして何回か七瀬を送り届けると小学生の姉に会った。 「…妹がいつもお世話になっております…ありがとうございました」 姉は小学生と思えないほど礼儀正しかった。 だが…その目はここにあらずって感じでどこか遠いところを見ている感じだった。 そう…俺と同じく死んだ魚の目だった。 七瀬を届けて母と俺は家に帰った。 はぁ…一杯飲んで酔いたい気分だ。 俺はオレンジジュースを一気飲みしてポテチを齧って気を紛らした。 ヤニ欲しいな…。 そして日曜日になっていつも通り一人で街をふらふらして無駄な時間を過ごした。 「どいて…痛っ!」 「コイツ上から飯で前から気に食わなかったぜ」 「バカ…目線だ…ちゃんと勉強しろ」 「なんだと!」 五人の男のガキ達が女の子のガキを囲んで虐めていた。 どこの世界にもいるね…本当に情けないな。 囲まれていた女の子のガキは見覚えがあった。 そう…七瀬の姉だった。 知り合いの身内を知らん振りするのも後味が悪くて助ける事にした。 「おい…そこのガキ共…女のガキ一人囲んで情けないと思わないか?ちんこついてるか?ついてるなら去るか…続けるなら切り落とすぞ」 「なんだこの小さい奴…お前何歳だ!おいらは8歳だ」 「ああ…来月から6歳になるが」 前世の年を合わせると33か… 「コイツ頭おかしいんじゃない?」 「ぎゃあぎゃあうるさいな…失せろって言ってんだガキ共」 「コイツ!」 ガキ共は今度は俺を囲んで殴ろうとした。 人類最強の剣と言われた俺がガキ相手で戦う羽目になるとは…泣きたくなるぜ。 ガキ達には先に鼻血を出せば大体泣いて勝負は終わる。 素手だと力加減が難しいし手に傷着くと息子バカの母が倒れるかも知らない…だから落ちていた細い枝を拾った。 「ぷははは!そんな細い枝で武器にするつもりか?」 「コイツ本当にバカだよ」 「君…セナを送ってくれてる保育園の子だよね?私に構わず逃げなさい」 俺の事を覚えいたか…死んだ魚の目同士だからかな…。 ああ…それにしでもガキ相手にこの技を使う事になると夢にも思わなかった。 「やっちまえ!」 「ボコってやる!」 瞬速5連払い…ソニシアルクィーンクエソード 俺は力を最大限に弱めてガキ共の鼻を叩き払った。 ……えっ? 鼻血をちょっとだけ出させるつもりだったが…ガキ共の体は空中に飛んでいた。 そして地面に落ちて大量の鼻血を流した。 …あれぇ?ひょっとして死んだ?ヤバイヤバイヤバイ! 「狼狽えなくていい気絶しているだけよ…ああ…鼻骨単独の骨折してるね…でも命には別状ないから安心して」 七瀬の姉はカバンからティッシュを出してガキ共の鼻に思いっ切り突っ込んだ。 「あの…窒息死しない?」 「そうなったらいいなと思うけど…みんな口が開いてるから大丈夫」 「おま…こえーよ」 小学生に見えない落ち着いた対応で俺は感心した。 「子供達相手にソニシアルクィーンクエソードをぶっ放すとは…どうかしてるわ」 「あははは…最大限に弱めたつも…ん?」 はっ?今なんと言った? 「その技…太刀筋…間違いないね」 七瀬の姉は俺を見ながら泣いていた…死んだ魚も普通に戻っていた。 「お前は誰だ…」 「酷いな…あんたのパートナーを忘れるとはな…相変わらず酷い男だわ」 「まさか……ルシール?」 「そうよ…私だよ…ルシールだよ!」 ルシールは俺に飛び込んで抱きつき凄い声で泣いた。 七瀬の姉は前世の仲間…ルシールだった。 まさかこんな世界で…それに前世の戦友と出会うとは想像も出来なかった。
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