わけ

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 十六時。 桃香が通用口から出てきた。 早すぎないか? まだ定時じゃないだろ。 早退? もしかして、今から通院とか? 「桃香!」 俺が声を掛けると、桃香はまた困ったような笑みを浮かべる。 「ちゃんと話したいんだ。」 俺がそう言うと、 「ごめん。  行くところがあって、時間がないの。」 と言われた。 やっぱり、通院のための早退か。 「いいよ。  俺も付き合うから、行った先で話そう。」 病院なら、待合室もあるし、待ち時間もたっぷりあるだろう。 桃香は、軽自動車の助手席を開けてくれた。 「乗って。」 田んぼの真ん中にあるこの工場への出勤は、ほとんどの人が車だ。 もちろん、桃香も。 後部座席には桃香には不釣り合いな物が乗っている。 ん? なんで? だが、俺は深く考えることなく助手席に乗り込んだ。 実家暮らしだと必要なのかもしれない。 なんか変な感じ。 東京では、桃香の運転する車に乗ることなんてなかった。 それが今、当たり前のように、桃香が運転している。  病院へ向かうだろうと思っていた俺は、意外な場所に車を止められて、戸惑った。 俺は、車内からキョロキョロと周りを見回す。 「すぐ戻るから、ちょっと待ってて。」 桃香は、そう言って、車を降りた。 これ… は… どういうこと? 五分程で戻ってきた桃香は、運転席後ろの後部座席のドアを開ける。 「待たせてごめんね。  とりあえず、うちでいい?」 「あ、ああ。」 俺は後部座席が気になって仕方ない。 チラチラと桃香と後ろを見比べて考える。  桃香はそこから五分程のアパートの駐車場に車を止めた。 部屋の鍵を開けて、 「散らかってるけど、どうぞ。」 と俺を招き入れてくれる。  俺は、勧められるまま、ダイニングテーブルの席に座った。  桃香が俺の前にお茶を出して、その隣にストローが刺さったかわいらしいマグを置く。 「えっと、何から話そうかな。」 そういう桃香は、とても優しい表情をしていて… やっぱり大好きだ と思った。 あの頃の桃香も、今の桃香も、変わることなく。
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