帰国

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「嘘吐くなよ。  俺が桃香を見間違えるわけないだろ 」 こんな偶然、あるもんじゃない。 今、この手を離したら、次はいつ会えるか分からない。 「あの… 仕事中だから… 」 桃香は小さな声で訴える。 あ…… 俺は、周囲の視線を感じて、桃香の手を離した。 桃香は俺の前を去って持ち場へと戻っていく。 「須原さん?  丸山がどうか致しましたか?」 施設長さんが心配そうに尋ねる。 「いえ。  実は彼女、学生の頃、御社でアルバイトを  させていただいてた時の上司だったので  懐かしくて。  彼女はいつからこちらに?」 俺は冷静に取り繕い、慎重に尋ねる。 「え? うちでバイトされてたんですか?  彼女は去年の春にここに異動になったん  ですよ。  でも、秋から休職してて、まだ先月復職  したばかりなんです 」 え? 異動? 店長は退職したって… 嘘だったってこと? いや、それよりも休職って… 聞きたいことは山のようにあったけど、取引先の人に根掘り葉掘り聞くわけにもいかず、 「そうなんですね 」 と言うに留めた。
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